−第21回−文化財 仏像のよこがお「融合する神と仏」

過疎化・高齢化が進む集落を中心に、盗難被害防止のために、博物館で寺の仏像を保管する事例が増えています。九度山町丹生川青渕の深い山中にある平見観音堂でも、管理する地区住民と同町教育委員会が相談して本尊像の博物館への寄託を決断し、昨年暮れに現地を訪れました。

高野山麓、丹生川沿いの蛇行する細い道からさらに脇道に入り、山を登った先に平見観音堂が見えました。すぐ先の沢には、丹生明神が降臨したという落差25㍍の丹生滝が流れます。梱包(こんぽう)資材を抱えて、転がり落ちそうになりながら斜面をはうように登ると、お堂の脇には珍しいイヌツゲの大樹が生え、信仰の場が幾世代にも渡って継承されてきたことが伺えます。すでに堂内に住民が集まっており、長老が読経した後、厨(ず)子の中から仏像を運び出しました。

頂上仏面と頭上面がある十一面観音で、左手にハスを挿した華瓶(けびょう)を持ち、右手はそのハスのつぼみに沿わせ、台座の上に立っています。緊張を解いた立ち姿は穏やかで、頬が豊かに膨らんで若々しく、平安時代末から鎌倉時代初期ごろの制作とみられます。一番の特徴は、材の使い方です。頭上から足元まで、両手先や肩から下がった天衣の先を含め、全てをヒノキの一木から彫り出しています。体の厚みは薄く、背面側には荒くノミ跡が残り、表面は素地(きじ)仕上げとし、頭上の顔は細部の表現を省略しています。

こうした造像法は、神の姿を木彫で表した神像の中に類似例があります。あたかも仏と神の両方の要素が、切り分けられずに、この一体の内に融合して込められているかのようです。

その神秘的な風貌を拝していると、例え像が地域を離れても、信仰の場を守り続けた人びとの傍らに変わらず「カミ」として寄り添っているであろうことを、強く感じるのです。

※10月3日(日)まで開催中の和歌山県立博物館企画展「きのくにの宗教美術」で展示。
(和歌山県立博物館主任学芸員・大河内智之)

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