−第26回−文化財 仏像のよこがお「移動してなお地域に留まる仏像」

かつて阿弖河荘(あてがわのしょう)と呼ばれた荘園の西端付近、有田川町楠本の法福寺には、32体もの平安時代の仏像が伝わってきました。現在、仏像の一部は和歌山県立博物館に寄託されていますが、今も阿弥陀如来と二十五菩薩が極楽浄土から往生者を迎えに来る様子を立体的に表した群像が本堂の中にずらりと並び、壮観です。

実はこの仏像群は、寺から約3km離れた、標高869mの堂鳴海山(どうなるみさん)から移されてきたものです。堂鳴海山の頂上付近には、山名の元になった「ドウナルミ」という通称地名があります。ナルミは本来「平」の意味で、要するに堂があった平地ということです。またオオトウノダン(大塔壇か)という地名もあり、寺院の痕跡が確かめられます。

後の時代の記録では、最勝寺・西仙寺・慈恩寺があったといい、このうち慈恩寺は、寛永12(1635)年に山の麓に移転。その後、廃寺となって、観音堂・来迎堂に安置されていた仏像が、明治6(1873)年に同じ村内の法福寺に引き継がれたのです。

この旧慈恩寺観音堂の本尊と想定されるのが観音菩薩立像です。像高113cm、1本のヒノキから像の大半を彫り出しています。体の厚みが大きく、重量感があり、上下の詰まった顔立ちや唇を少しとがらせた風貌など、平安時代中期、10世紀の特徴を示しています。

堂鳴海山山頂のドウナルミには「火伏の観音さん」と呼ばれる岩の塊があり、今も毎年春に住民が集まり、観音会式が行われています。こうした観音信仰の痕跡も踏まえると、この観音菩薩立像こそが、かつて堂鳴海山にあった堂の本尊ではないかと想像されます。仏像は例え移動しても村や人との繋がりを簡単には失わず、地域の信仰の歴史を語りかけ続けてくれています。企画展「仏像は地域とともに―みんなで守る文化財」(1月29日~3月6日)で公開中。
(和歌山県立博物館主任学芸員・大河内智之)

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