少年と野良犬との友情と絆、別れ
魂を揺さぶられる一冊
すれ違いざまに「なんぼ賢い学校か知らんけど、ブスばっかり」と吐き捨てるように言った女子高生。言われたほうは「アホの学校」と切り返し、小競り合いが続きました。「頭のいい人たちだね」「きれいな子が多いね」と褒め合うことも、「みんな違ってみんないい」と認め合うことも、最後までありませんでした。
政府が女性の社会進出にエールを送り、「女性が輝く社会を」と。これに過敏反応した人たちが、「専業主婦だと肩身が狭い」と言い始めました。
私がフリーランスで働き始めた時代は、「結婚しておられるのですか」が断り文句、「お子さんがいるのですね」は「お帰りください」の合図でした。「(外で)働かなければならない」と「働かなくてもいい」の線引きが経済面にだけあり、後者には少しの優越感があったように記憶しています。「子どもがかわいそう」という言葉も耳にタコができるくらい聞きましたし。
「○○(惣菜屋さん)のポテトサラダがおいしいですよ」と言った途端、「ポテトサラダなんか買わないわ。家で作るものよ」と先輩ママたちから大ブーイング。
そんな時代を経て、仕事に求められる条件に「結婚していること」や「子育て経験」が加わったときのうれしさ。友人からは「あなたは仕事があっていいわね」と本音?が聞けるようになりました。
『あの路』(出版=平凡社、山本けんぞう・文/いせひでこ・絵)はママが死んでおばさんの家に預けられたぼくと、「三本足」と呼ばれる野良犬との出合いと別れを描いた作品です。孤独を救った「あの路」から、やがてぼくは去り、未来へと旅立つのですが…。ぼくが学校へ行かなくなった理由は「いじめ」。でも、そのことは一行も書かれていません。絵だけで知るのです。
いせひでこさんの絵と山本けんぞうさんの文章が心に染み渡り、読後は浄化されたような気持ちになります。仕事、子育て、人間関係のしんどさを、いつも絵本が救ってくれました。
(おわり)
名前 | なりきよ ようこ |
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プロフィル | 絵本編集者として勤務後、渡欧。帰国後フリーに。 保育所や小学校で読み聞かせを25年以上続けている。絵本creation(編集プロダクション)代表 |