防災遺産で町おこし

防災遺産で町おこし

広川町に伝わる故事「稲むらの火」にちなみ、国連で11月5日が「世界津波の日」に採択されて、まもなく1年になります。広川町は、津波防災遺産を軸に、建物や伝承など、歴史的資源を生かした、町づくりを進めています。

広川町の風致計画が国の認定受ける
建物や伝承を生かし環境整備へ

「稲むらの火」は、安政元(1854)年、旧暦の11月5日、安政南海地震に伴う津波が広村(現広川町)に押し寄せた時、実業家・濱口梧陵が稲わらの束に火をつけ、村民たちを高台に導き、津波から守ったという故事。

昨年12月、国連総会で日本が、11月5日を国連の共通記念日「世界津波の日」とすることを提案。日本を含む142カ国が共同提案国となって制定されました。津波のおそろしさ、地震後の早期避難を伝える防災の重要性を説いた話は、世界中にさまざまなかたちで広がり、注目されています。

そんな中、同町の「稲むらの火」にまつわる津波防災遺産を軸とした「歴史的風致維持向上計画」が、今年10月3日、国土交通省などの認定を受けました。計画は、歴史的な建物や伝承を生かした町づくりを支援する法律「歴史まちづくり法」に基づくもの。これまでに認定された自治体は、広川町を含めて59市町。県内では湯浅町に続き、2例目となります。

広川町は来年、文化庁の「日本遺産」も申請する予定で、同町教育委員会の平井正展さんは「歴史的な魅力を見直すことで価値を高め、町の活性化につなげていければ」と話しています。下記では、広川町の歴史や街並みを紹介します。

歴史を感じながら広川町を散策

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濱口梧陵による村人救出と広村堤防築堤の復興は、故事「稲むらの火」となり、現在も防災教育の象徴として語り継がれています。

梧陵は、広村で分家・濱口七右衛門の長男として生まれ、12歳の時に本家の養子となり、千葉県銚子で家業「ヤマサ醤油」の事業を継いでいました。安政南海地震が起こり、紀伊半島一帯を津波が襲ったのは、梧陵が広村に帰郷していた時のこと。

梧陵は、田んぼに積み上げられた稲わらを燃やし、避難路を示すことで、暗やみの中で逃げ遅れていた村人を高台の広八幡神社へ誘導。

災害後も自分の財産を投じ、村人のために家を建て、仕事を失った人には堤防をつくるための仕事を与えるなど、復興に力を注ぎました。その堤防は昭和南海地震の時、村を津波の被害から守っています。

土盛りをする子どもたち

土盛りをする子どもたち


同町では、防災意識を高めるため、毎年10月第3土曜に「稲むらの火祭り」を開催。住民たちが火のついたたいまつを手に、同町の役場を出発し、避難道をたどるようにして、広八幡神社までの約2キロを歩く行事が続いています。また11月5日は、地元の小中学生によって、広村堤防の土盛りが行われた後、感恩碑の前で、梧陵の功績をたたえ、町の安全を祈願する式典が行われています。

今回の計画では、「稲むらの火」の伝承、広八幡神社、老賀八幡神社、三輪妙見社、吉宗ゆかりの出世大黒天、熊野古道を歴史的風致として挙げ、約153ヘクタールを重点区域に指定。

たいまつを持ち歩く参加者

たいまつを持ち歩く参加者


今後、広村堤防周辺に広場を設け、訪れた人が史跡を体感できるようにする他、濱口家住宅や古い街並みが残る地区の建物の保存・活用、祭礼などの伝統行事を生かした環境を整備。町内の散策に合わせ、AR(拡張現実)アプリを取り入れるなど、観光客を誘致し、地域の活性化へとつなげていきます。

また、「稲むらの火」や梧陵に関するシンポジウム、4年後の梧陵生誕200年祭、「世界津波の日」10周年事業なども予定しています。

津波防災の拠点「稲むらの火の館」
3Dシアターなど、多言語化対応へ

濱口梧陵記念館と津波防災教育センターの2つの施設からなる「稲むらの火の館」は、来年4月に開館10周年を迎えます。

記念館は、梧陵の功績や教訓などを紹介。教育センターは、防災の3つの知恵である応急・復旧・予防をゲーム形式で学べるコーナー、地震津波を体感できる津波シュミレーション、3Dシアターなどがあります。

「世界津波の日」の制定後、国内外から施設を訪れる人が増加。3Dシアターが、英語・中国語など6カ国語に対応。今年度末には、展示物なども多言語化されます。

稲むらの火の館

稲むらの火の館


津波シュミレーション

津波シュミレーション


梧陵の功績などを紹介

梧陵の功績などを紹介

問い合わせ 稲むらの火の館
営業時間 午前10時~午後5時(入館は4時)
定休日 月・火曜(祝日の場合は開館)と年末年始
電話 0737(64)1760

2 東濱口公園

重厚なレンガ作りの高い塀に囲まれた日本庭園。しだれ柳や紅葉、ツバキなど、四季を通じて楽しめます

重厚なレンガ作りの高い塀に囲まれた日本庭園。しだれ柳や紅葉、ツバキなど、四季を通じて楽しめます

問い合わせ 広川町教育委員会
住所 広川町広1292ー2
営業時間 午前10時~午後5時(11月~2月は4時半)
定休日 月・火曜(祝日は開園)
電話 0737(23)7795

3 感恩碑

昭和8(1933)年、広村堤防など津波を防ぐための施設の恩恵に感謝し、当時の広村長が発起人となって建設。海に面して建てられた碑には、梧陵が広村堤防を構築したことに対する感謝の言葉が刻まれています

昭和8(1933)年、広村堤防など津波を防ぐための施設の恩恵に感謝し、当時の広村長が発起人となって建設。海に面して建てられた碑には、梧陵が広村堤防を構築したことに対する感謝の言葉が刻まれています

4 広村堤防

堤防は2列に並んであり、後方の堤防が安政の大津波後、梧陵が私財を投じ、安政5(1858)年に完成。高さ5m、根幅20m、延長600mの大堤防で、横断道路を2カ所設け、うち1カ所には両開きの鉄扉(赤門)がついています

堤防は2列に並んであり、後方の堤防が安政の大津波後、梧陵が私財を投じ、安政5(1858)年に完成。高さ5m、根幅20m、延長600mの大堤防で、横断道路を2カ所設け、うち1カ所には両開きの鉄扉(赤門)がついています

5 耐久社

江戸時代末期の嘉永5(1852)年に梧陵、濱口東江、岩崎明岳によって、子弟教育として、剣術や漢学を教えた私塾。現在の耐久高校に至ります。平屋建瓦ぶきの建物で、今も耐久中学校の敷地内に残されています

江戸時代末期の嘉永5(1852)年に梧陵、濱口東江、岩崎明岳によって、子弟教育として、剣術や漢学を教えた私塾。現在の耐久高校に至ります。平屋建瓦ぶきの建物で、今も耐久中学校の敷地内に残されています

6 濱口梧陵墓

明治18(1885)年、梧陵の長年の願いだった欧米への視察途中、ニューヨークで永眠。その墓は、広川町の淡濃山(たんのうさん)の麓にあります。昭和13(1938)年に国の史跡に指定されました

明治18(1885)年、梧陵の長年の願いだった欧米への視察途中、ニューヨークで永眠。その墓は、広川町の淡濃山(たんのうさん)の麓にあります。昭和13(1938)年に国の史跡に指定されました

7 広八幡神社

標高40mの小山を背景に建ち、安政大地震の際、住民の避難所となりました。秋祭りには、五穀豊穣(ほうじょう)の舞を奉納する田楽、渡御行列などが受け継がれています

標高40mの小山を背景に建ち、安政大地震の際、住民の避難所となりました。秋祭りには、五穀豊穣(ほうじょう)の舞を奉納する田楽、渡御行列などが受け継がれています

問い合わせ 広八幡神社
住所 広川町上中野206
電話 0737(62)2371

8 養源寺(出世大黒天)

徳川吉宗に寄進された土地。その後、吉宗が8代将軍に就任したことから、出世大黒天と親しまれています。毎年4月の第1日曜、大黒天画像が開帳されます

徳川吉宗に寄進された土地。その後、吉宗が8代将軍に就任したことから、出世大黒天と親しまれています。毎年4月の第1日曜、大黒天画像が開帳されます

問い合わせ 養源寺
住所 広川町広1465
電話 0737(62)3314

9 熊野古道

広川町内の熊野参詣道紀伊路は、ミカン畑や集落を抜け、鹿ヶ瀬峠を越えて日高町へと向かいます。途中、国指定史跡の熊野九十九王子の一つである河瀬王子社跡、養源寺の源流とされる法華壇などがあります

広川町内の熊野参詣道紀伊路は、ミカン畑や集落を抜け、鹿ヶ瀬峠を越えて日高町へと向かいます。途中、国指定史跡の熊野九十九王子の一つである河瀬王子社跡、養源寺の源流とされる法華壇などがあります

10 老賀(ろうが)八幡神社・三輪妙見社

同町上津木の老賀八幡神社と同町下津木の三輪妙見社。山間にあり、地元の氏神として信仰されています。獅子舞や餅まきの行事などが今も守り続けられています

同町上津木の老賀八幡神社と同町下津木の三輪妙見社。山間にあり、地元の氏神として信仰されています。獅子舞や餅まきの行事などが今も守り続けられています

問い合わせ 広川町教育委員会
電話 0737(23)7795

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取材・写真協力:広川町教育委員会

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