−第30回−文化財 仏像のよこがお「丹生明神の道と頬切地蔵」

かつらぎ町の三谷地区と天野地区を結ぶ三谷坂は、2016年に世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」に追加登録されました。10世紀ごろ成立した「丹生大明神告文(のりと)」に記される神話によれば、丹生明神は最初に奄田村石口(三谷の丹生酒殿神社付近と推定)に降り立ち、周辺各地を巡った後、最後に天野原に至り、そこに鎮座したとされています。

天野には高野山鎮守の丹生都比売(にうつひめ)神社があり、丹生高野四社明神と呼ばれる四柱の神々がまつられています。かつて同社にはこの四柱の神々を祭祀(さいし)する一の祝(はふり)から四の祝までの4人の神主がおり、このうち一の祝(丹生総神主家)は三谷に居を構え、日々三谷坂を行き来していたといいます。また、平安時代後期の仁和寺門跡覚法法親王も高野登山の際に用いたなど、丹生明神の聖地をつなぐ由緒正しき祈りの道だったのです。

紀の川のほとりにある三谷から直線で2km先の天野までは、標高差400mをほぼ直登するきつい坂道が続きます。その途中、緑泥片岩(りょくでいへんがん)の大きな岩塊が露頭し、清水が湧き出る平場があり、その岩の一つに宝形造(ほうぎょうづくり)一重の宝塔が彫り出され、その三面に大日如来・阿弥陀如来・釈迦(しゃか)如来の坐(ざ)像が刻まれています(もう一面は岩塊のまま)。

大日如来の頭部に斜めにひびが入り、地元では首から上の病を治す「頬切地蔵」と呼ばれて信仰されてきました。各像の丸く円満な風貌や、ゆったりとして穏やかな座り姿は、平安時代後期、12世紀の仏像様式の特徴です。世界遺産追加登録の事前調査で見いだされた本像は、丹生明神の道を歩む人々を見つめてきた、高野山周辺における最古の石仏だったのです。(和歌山県立博物館アドバイザー・奈良大学准教授・大河内智之)

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