和歌山県庁本館が築80年 今!建築遺産がおもしろい

リビング和歌山3月10日号

 心を豊かにする“Good Life”。今年4月、竣工から80年を迎える和歌山県庁本館は、細部までこだわった端正なデザインや装飾が施され、いつまで見ていても飽きることがありません。県庁本館をはじめ、今も利活用されている歴史的な建物を紹介。その魅力を実感してください。

県の歴史を物語る貴重な建物
技術、デザインともに高い評価を得る

戦前の和歌山市は工業都市として栄え、西洋化された建物(近代建築)と城下町の風情を残す町並みで形成されていました。しかし、1945(昭和20)年の和歌山大空襲で一夜にして多くの建物が焼失。戦火に耐えた県庁本館は、県の歴史を物語る上で貴重な建物の一つです。

竣工は今から80年前の1938(昭和13)年4月。耐久性、耐震性のある鉄筋コンクリート造を導入し、最新の技術とデザインを取り入れた建物は高く評価され、2013(平成25)年、国登録有形文化財(建造物)に登録されています。

趣のある建物が老朽化によって取り壊されるなど、身近にある懐かしい風景がいつの間にか変わってしまうことも少なくありません。各地でまちの再開発が進む一方、古い建物を発掘し、歴史遺産や保存対象とすることに加え、利活用しようという考え方が全国的に浸透しつつあります。

県内に残る古い建物の調査・保存に取り組んでいる和歌山県建築士会副会長の中西重裕さんは「歴史を知り、丁寧に観察することで、建物が持つ個性や魅力を感じることができます」と話します。

中西さんに県庁本館や、その他の建物の見どころを教えてもらいます。

楽しんでっ! まちの魅力を再発見

目指したのは耐震性の高い建物
細部の装飾など、見どころたくさん

和歌山県庁本館(以降は本館)は、地上4階建ての鉄筋コンクリート(RC)造(一部鉄骨鉄筋コンクリート)で、1871(明治4)年7月の廃藩置県後に建設された県庁舎としては三代目となります。

①車寄せのコンクリートの打ち込み作業

①車寄せのコンクリートの打ち込み作業

本館について中西重裕さんは「関東大震災を教訓に県が目指したのは、壮麗豪華な建物ではなく、シンプルだけれど最新のデザインで非常時でも機能できるような耐震性の高い建物を造ることでした。戦前の県庁舎で今も現役で庁舎として使われている建物は、和歌山を含め、神奈川、富山、宮崎など9例だけ。全国で建て替えられた庁舎が多い中、改修しながら使っていること自体がすごいことです」と話します。

設計は、県技師の増田八郎。最新の技術を取り入れようと、日本のRCと鉄骨構造の開拓者・内田祥三を顧問に迎え、近代建築の技術変革に大きく関わったとされる清水組(現清水建設)が施工を行いました。重機などが今のように発達していない時代は、コンクリートを練ったり、柱となる鉄筋を運んだり、ほとんどが手作業。さらに、日中戦争による鉄材の高騰や現場の労力不足など、建設が容易でなかったことが想像できます(写真①②=和歌山県立文書館蔵)。

②外壁の装飾を行う職人

②外壁の装飾を行う職人

竣工式典は着工から2年後の1938(昭和13)年4月15日。保管された当時の資料を見ると、約1000人が招待されて式典が開かれたこと、紅白の餅まきや宴会が盛大に行われたことなど、待望の新庁舎であったことが記されています。

その歴史や様子は、中西さんも著者の一人として関わった書籍『和歌山県庁本館』(和歌山県建築士会発行、同会会員など著)でも知ることができます。中西さんは「凝った細部のデザインや装飾はすばらしく、見どころがたくさん。建物を探索しながら、自分たちのまちを楽しんでください」と話しています。

 

県庁本館の美・用・材
建物は左右対称の西洋風のデザイン。通風や採光を重視し、完成当初は、上から見ると“山”の字型をしていました。車寄せ、正面玄関、外壁のタイル、整然と並んだ窓など、見応えあり。いくつかを取り上げ、写真とともに紹介します(写真提供=長岡写真事務所・長岡浩司)。

車寄せアプローチ

車寄せアプローチ庭園から正面玄関への階段と、両サイドから回り込む車寄せで構成され、床は御影石、花壇はテラコッタを使用。「(設計が似ている)富山県庁舎はアプローチが広く、外部階段から直接2階まで階段で上がっているが、和歌山県庁舎は正面の進入路の引き込みが狭いので、外部から中2階まで上げ、内部階段で2階へ上がれるようにした」と、基本計画者・営繕技師の松田茂樹の言葉が残されています

テラコッタ

テラコッタテラコッタは、大判の素焼きタイルのことをいいますが、建物を装飾する部材としても用いられます。建物を見上げると、正面玄関の車寄せ部分のひさし回り、窓、出入り口の額縁など、随所で使われているのが分かります。中でも注目するのは、玄関ひさし上部に塔を築くようにしてタイルを積み上げた装飾柱のトンガリ帽子。正面だけではなく、やや斜めから見ると、壁面の深浅など、さまざまな表情が味わえます

正面玄関

正面玄関人でいうと「顔」に当たる部分です。外観全面を覆う黄褐色のタイルとテラコッタ装飾のひさし、花崗(かこう)岩でできた太い柱が目を引きます。階段を上ると、玄関ホールに入ります。床は大理石、天井は石こう製で、梁(はり)が柱に取り付くところには、繊細な彫刻が施されています。玄関の階段を上ると、建物の2階。中央ホールは、明るく、広々とした空間になっています

保田龍門のレリーフ

保田龍門のレリーフ正面玄関を入った中央階段踊り場の壁に、県出身の彫刻家・保田龍門(やすだりゅうもん)作のレリーフ(彫刻)が飾られています。作品は古事記や日本書紀を題材にしたもので、2階は「丹生都比売命(にうつひめのみこと)」、3階は「高倉下命(たかくらじのみこと)」。一般的にレリーフといえば、青銅を想像しますが、制作時は軍事物資不足のため、金属類の回収令が出されており、作品はセメントでできています

正庁

正庁今も変わらず竣工当時と同じ場所にある部屋の一つ、正庁。正面玄関の真上の4階部分にあり、床一面に深紅のじゅうたんが敷きつめられています。正面は竣工当時の奉掲所で、床は一段上がり、背面の額縁はつや消しの漆塗り。金箔(きんぱく)が施された2羽の鳳凰(ほうおう)と、6つの雲形が、りんとした雰囲気を醸し出しています。現在も県の公式行事などに使われています

巡ってみよう! 近代建築

西本ビル(旧西本組本社ビル)

西本ビル(旧西本組本社ビル)江戸期に土木業から始まり、現・紀の川鉄橋や満州鉄道敷設工事も手掛けた旧西本組の本社ビルは擬ルネサンス様式。基壇は御影石、上層部は茶色のタイル、玄関の三角屋根と円柱は古代ギリシャの建築様式が用いられ、柱頭の渦巻き飾りがポイント。内部は事務室と階段室で構成され、高い天井と木製の上げ下げ窓は時代を感じさせます。現在、貸ビルとしてさまざまな用途に使われています
住所/和歌山市小野町
竣工/1925(大正14)年以前

県立桐蔭高校同窓会館(旧制和歌山中学校図書館)

県立桐蔭高校同窓会館(旧制和歌山中学校図書館)開校50周年記念の一環として保護者の寄付で建設。建物後方に、3階建ての閉架式図書館がありましたが1973(昭和53)年、同窓会館として改修する際に撤去。東側に2階建ての建物が増築されました。正面中央に付けられた校章から伸びる壁のラインや玄関ポーチのひさしなどが水平線を作り、整然とした表情を見せています。木製扉や御影石の階段も重厚です
住所/和歌山市吹上
竣工/1929(昭和4)年

京橋

京橋和歌山城旧外堀の市堀川に架かる橋。江戸時代は大手門に続く道で、幕末まで町民の通行は禁止されていました。1909(明治42)年~1971(昭和46)年は橋の中央を路面電車が走り、両脇に車道と歩道がありました。現在のデザインになったのは昭和に入ってから。青銅製の電灯が取り付けられていた花崗岩の燈柱(とうちゅう)が現在も残っています
住所/和歌山市十一番丁
竣工/1929(昭和4)年

伝法橋

伝法橋1585(天正13)年、豊臣秀吉の根来寺攻めで焼け残った大伝法院堂の木材を京都に運ぶ際、一時的に置いていたため「伝法」という名称になったとも。元は市堀川を挟み、市民会館後方に架けられていましたが、1917(大正6)年に現在の位置に移動。かつては橋のたもとに和歌山織布会社のレンガの建物が存在。明治以降、和歌山は綿ネルの生産が盛んで、紀州ネル発祥の地でもありました
住所/和歌山市伝法橋南ノ丁
竣工/1953(昭和28)年

紀陽銀行本店

紀陽銀行本店銀行建築としての威厳と風格。正面は、建物全体を5分割したフレームをつくり、中央の4本の円柱で支えています。タイル貼りの壁面を後退させることでできる陰影が、立体感を強調。開口部にガラスブロックが規則正しく並べられている他、外壁の保田龍門作のレリーフは、林業(春)、漁業(夏)、柑橘(秋)、繊維(冬)と、県の主要産業・産物が表現されています
住所/和歌山市本町
竣工/1954(昭和29)年

紀陽銀行本店

松下会館現パナソニックの創業者・松下幸之助の寄付で、和歌山大学経済学部の学生会館として建設。外観は、西日を適度に調整する白い穴空きブロックが用いられ、かき落としのモルタル、茶色のタイル貼りのおしゃれな造り。学生ホールを内包しているとはいえ、威圧感はなく周囲の住宅とも共存。設計は綿業会館や旧和歌山市役所(1936年完成)などを手かげた日本を代表する近代の建築家・渡辺節です
住所/和歌山市西高松
竣工/1961(昭和36)年

てくてく、まち歩き

ワクワク探検隊 ~和歌山レトロ建築物めぐり~

案内人 中西重裕さん県内のレトロ建築を、中西さんと一緒に巡る“まち歩き”イベント。建物の歴史や見どころを分かりやすく解説してくれます。
和歌山県建築士会副会長、和歌山ヘリテージネットワーク協議会代表世話人、一級建築士事務所K&Nアーキテクツ代表。和歌山の建物の魅力を紹介する書籍の発刊をはじめ、“まち歩き”イベントを開催するなど、多岐にわたって活動を展開しています

東松江駅 周辺コース
日付 3月24日(土)
集合場所 南海加太線・東松江駅
ルート 島橋架橋→春日神社→寂光院→一字一石塔
紀和駅 周辺コース
日付 5月19日(土)
集合場所 紀勢本線・紀和駅
ルート 紀和駅→嘉家作り町家→地蔵の辻→紀伊中ノ島駅
※他、近代和風住宅を予定
和歌山城 周辺コース
日付 7月21日(土)
集合場所 和歌山県庁
ルート 和歌山県庁→浜病院→無量光寺→真砂浄水場
※他、近代和風住宅を予定
開催時間 午後1時半~3時半(集合は1時)
参加費 各1500円(保険料含む)※拝観料など別途必要な場合あり
持ち物 筆記用具
申し込み・問い合わせ 073(452)2331 K&Nアーキテクツ
※詳細は、同社ホームページ(http://kandn2.web.fc2.com)「ワクワク探検隊」でも確認できます

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