ドングリから 森を育て、山を守る“戻り苗(もどりなえ)”

リビング和歌山11月19日号「ドングリから 森を育て、山を守る“戻り苗(もどりなえ)”」

かわいい苗を育てることで、離れた場所でも“森づくり”や“山づくり”に貢献できる「戻り苗」。ドングリから芽生えた苗が、やがて和歌山の山で根付いて森になる―。豊かな森は二酸化炭素の排出削減に役立ち、土砂災害から山を守ります。

家で苗を育てて森に返す
和歌山の山や林業に関心を持って

和歌山県田辺市から届く5粒のドングリ。これらを専用のポットで育てると、小さな芽が生え、かわいらしい苗に成長します。手元で育てるのは2年間、約15㌢~20㌢ほどになった苗木は、田辺市の山に戻します。誰でも簡単に和歌山の“森づくり”や“山づくり”に参加できる、新しいスタイルの観葉植物「戻り苗」。

近年、日本各地で長雨や集中豪雨による土砂災害が多く見られるようになりました。こうした被害を防ごうと、森づくりに注目し、昨年、この「戻り苗」を商品化したのは、林業のベンチャー企業「ソマノベース」(田辺市)。代表取締役の奥川季花(ときか)さん(26歳、写真上)をはじめ、20歳代の若き社員8人と顧問2人により組織されています。

奥川さんは那智勝浦町出身。高校1年生のとき、紀伊半島大水害を経験しました。「私の家は浸水を免れましたが、周りは湖のような状態で、慣れ親しんだ場所が土砂で流されたり、建物が倒壊していたり…、大変な被害でした。もちろん亡くなった方も多く、中学生時代の後輩が犠牲になり、とてもショックでした」と、奥川さんは当時を振り返ります。

「生きていることに感謝するのと同時に、自然災害を目の当たりにして自分の無力さを感じました。この災害をきっかけに、地元に役立つことをしたいという思いを抱くようになりました」。大学進学時には、防災意識の大切さを伝える会社をつくるという目標を持っていたと言います。

その後、奥川さんは起業ノウハウを学び、また災害対策としての林業を学ぶため、各地の森林産業の現場を視察してきました。そんな彼女のもとに集まったのが、ソマノベースのメンバーたち。「戻り苗」はその一人、グラフィックデザイナーの西来路(さいらいじ)亮太さんによる発案でした。

戻り苗を育てるためのキットが入ったパッケージ

戻り苗を育てるためのキットが入ったパッケージ

「ソマノベースに携わるまで、実は林業や森林には無関心でした。でも、そんな関心のない人たちでも、森や山のことを考えたり、興味を持ったりできるアイテムとして“戻り苗”を考えました」と、西来路さんは話します。

成長する喜び、森林でもっと大きく

木製の鉢①木製の鉢は、田辺市の山で育ったヒノキで一つ一つ手作業で作られたもの。間伐材ではなく、国産材として出荷される木材から作られ、林業の今後の発展にもつながります
②鉢は繰り返し使えます。苗を戻したら、次はドングリと土だけ購入して、何度も育てることができます
③鉢の底には水受け皿を置き、ポットは水につからないよう、ちょうどよい高さにセットできます

昨シーズンは333個を販売
企業の社会貢献活動にもつながる

 「戻り苗」は、ドングリ5粒と、それを育てる専用ポット、土、肥料、そして木の鉢と水受け用の皿がセットになったキット。ポットに土を入れて水を含ませ、鉢にセットしてドングリを土に寝かせて置くと準備完了。水をやり、発芽させて、1本の苗木に育てます。ドングリは田辺市の山で集められたもので、和歌山県の木であるウバメガシの実。2年間育てた苗木は田辺市の山に戻り、さらに大きくなって、ウバメガシの森になります。

「苗木を植えるのは、木が伐採された後に、植林されず放置されている皆伐地(かいばつち)。植えた後は、林業家に管理してもらいます」と奥川さんは説明。

植林ツアーの様子

自分の手で苗木を植える“植林ツアー”に参加して(オプションメニュー)、苗を戻すこともできます

「土砂災害が起こる原因は複数あり、管理されていない植林地や皆伐地が増えたことも要因の一つだとされています。現在、外国産の木材が安く大量に輸入され、日本の林業経営は厳しくなっていて、新たな植林に費用がかけられない現状があります。さらに、人手不足や後継者不足が拍車をかけます」。こうした悪循環に歯止めをかけ、林業を通して災害リスクが低い山を増やすことを、ソマノベースは事業目標に掲げています。

西来路さんは、「戻り苗を育てることで、緑が癒やしになり、成長する喜びを感じてもらい、その苗が集まって和歌山の山で森になります。愛情を持って育てた苗はどんな山に植えられるのか、その山は今どんな課題を抱えているのか、少しでも多くの人に知ってもらいたい」と、戻り苗に込めた思いを語ります。

昨年3月、戻り苗の企画が「ウッド・チェンジ・アワード」のブロンズ賞を受賞。これは、国産材の新たな可能性を生み出すプランや作品に贈られる賞で、国内外からエントリーされた103作品の中から選出されました。
その後、商品化を目指したクラウドファンディングで支援を募り、目標額100万円を上回る約140万円の資金を獲得。商品化が実現し、ECサイトを立ち上げて、今年1月までの昨シーズン中に、合計333個が販売されました。

同時に企業からの注文や相談が多く、オフィスや店舗向けの「戻り苗フォー・ビジネス」も新たに商品化(写真)。

企業向けの苗とラックのセット

企業向けの苗とラックのセット。サイズは相談に応じて。森林課題に取り組む姿勢をアピールできます

こちらは、設置してすぐ観賞用になるよう、半年ほど育てた苗木をセットにして販売し、約1年後に戻す仕組み。来月には、企業1社が苗を戻す予定で、社員たちが自分たちの手で植林を行います。戻り苗の森ができる、最初の一歩となります。

個人向けの今シーズンの戻り苗の販売がこの秋にスタート。3月15日までの販売予定で、用意された800個のキットが完売すれば終了します。

奥川さんと、戻り苗の発案者でソマノベースのクリエイティブディレクター・西来路さん(写真左)

奥川さんと、戻り苗の発案者でソマノベースのクリエイティブディレクター・西来路さん(写真左)

戻り苗のキット

戻り苗のキット
(1万2100円、送料込み)

①ドングリ5粒②黒いポット(苗を育てる専用コンテナ)③土④栄養剤(肥料)⑤木製の鉢⑥水受け皿
届くとすぐに栽培を始められます
オリジナルのロゴやデザインを鉢に入れることも可能(1万4300円)。購入はページ下部サイトから

教えて! 戻り苗 ワンポイントアドバイス

Q.どこで育てればいいですか

直射日光の当たらない室内で育てます。発芽するまでは30~50ml、発芽後は50mlほど、1日1回水やりをします。

Q.いくつもドングリが発芽したら?

 黒いポットは林業家が使う植林用で、成長したら1本の苗をそのまま植えられるようになっています。複数育てると土の養分を奪い合い、枯れてしまうことも。複数の芽が出たら、しばらく様子を見て、よく育ちそうな1本だけにします。

Q.ドングリが発芽しないこともありますか

樹木医のアドバイスで発芽しやすいドングリが選別されていますが、発芽しない場合は新しいドングリを送ってもらうことができます。

Q.枯れてしまったらどうしますか

 状態によっては回復する場合もあり、戻り苗購入者専用の公式LINE(ライン)で質問できます。ソマノベースのスタッフが樹木医にアドバイスを仰ぎ、返答してくれます。それでも回復しない場合は、次の販売シーズンにドングリだけを購入し、再チャレンジできます。

その他、苗を育てている間に、困ったことや不安があれば、公式LINEで質問できるようになっています

購入前に気になることがあれば、下記ホームページの「FAQ」をクリック

戻り苗について詳しくは
【HP】https://modrinae.myshopify.com/
【Mail】info@modrinae.jp

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