−第46回−文化財 仏像のよこがお「生きているような法燈国師の姿」

 有田市・円満寺の法燈国師坐像

生きているような法燈国師の姿

 日本におけるしょう油発祥説の一つに、禅僧覚心が、中国・宋の径山寺(きんざんじ)からみその製法を持ち帰り、そのたまり汁をしょう油として利用したという話があります。中世末にはしょう油醸造を行っていた紀州湯浅のみそとしょう油の歴史の古さをうかがわせる伝説です。

無本覚心(1207~98)は、信州神林(現長野県松本市)の出身で、19歳で出家して高野山に登り、禅定院(後の金剛三昧院=こんごうさんまいいん)の退耕行勇(たいこうぎょうゆう)の弟子となって禅と密教を学びます。その後、鎌倉寿福寺などに移り、1249(建長元)年、紀州由良港から船を出し、博多から中国・宋の杭州径山興聖万寿寺へ。本場の禅を学び、杭州護国寺で無門慧開(むもんえかい・仏眼禅師)から印可(悟りを得た証明)を得ました。

有田市・円満寺の法燈国師坐像2帰国後は金剛三昧院の首座となり、葛山景倫(かつらやまかげとも・願性)が、源実朝と北条政子の菩提をとむらうために建てた由良荘の西方寺(現在の興国寺、由良町)に請われて住持となり、多数の弟子を輩出。没後、亀山上皇から法燈国師、後醍醐天皇から法燈円明国師の号を贈られ、その一門は臨済宗法燈派と呼ばれました。

禅宗では教えを受け継いだ証として師僧の姿を絵や彫像で表します。これを頂相(ちんぞう)と呼びます。法燈国師の頂相は多く、中でも興国寺開山堂の像は、最晩年の姿を写した等身大の姿で、日本を代表する優れた頂相彫刻として重要文化財に指定されています。

和歌山県立博物館企画展「法燈国師―きのくに禅僧ものがたり―」(10月1日まで)で公開中の有田市・円満寺の法燈国師坐(ざ)像は、像高59・4センチとやや小ぶりで、寺伝に「試開山」と伝わります。「紀州由良鷲峯(じゅぶ)開山法燈円明国師之縁起」によれば、興国寺像に先行して、1293(永仁元)年に「小刀刻頂相」を作り、「試開山」と呼んだとあり、本像がそれに相当すると見られます。老僧の迫真的な風貌をそのまま写した優れた寿像(生前に作られた肖像)に対面すれば、かつて弟子たちが仰ぎ見た高僧の存在を、時を超えて確かに実感できるでしょう。
(和歌山県立博物館アドバイザー、奈良大学准教授・大河内智之)

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