−第58回−文化財 仏像のよこがお「回国の造仏僧、宇佐の住人清意」

弘法大師坐像 大日講蔵

弘法大師坐像 大日講蔵

 仏像を造る工人を「仏師」といいます。飛鳥時代の鞍作止利(くらつくりのとり)、平安時代の定朝、鎌倉時代の運慶や快慶などよく知られた仏師もいますが、名も知れず、人々の祈りの思いに応えて仏像を生み出した仏師が、あらゆる時代・地域にいたのです。

かつて紀美野町毛原に、住民により組織された結社「大日講」があり、山中の大日堂を管理していました。本尊は平安時代末期の菩薩坐像(ぼさつざぞう)2体で、他にもいくつかの仏像がまつられていましたが、講員の減少と高齢化のために講は休止し、仏像は和歌山県立博物館が預かりました。

その中の一つに、像高32・9㌢の小さな弘法大師坐像があります。右手に五鈷杵(ごこしょ)、左手に数珠を持って座る定型的な大師像ですが、面長で頬の丸い頭部の輪郭や、襟を少し立て、なで肩でやや胴長の体型、厚みのある膝の表現など、個性的な作風で、制作は室町時代にさかのぼると判断されました。

後になって、本像と作風が共通する仏像に思い至りました。同じ紀美野町の国吉地区にある惣福寺(そうふくじ)観音堂の秘仏本尊千手観音坐像(像高84・8㌢)で、襟が立ち、なで肩で胴が長く、膝も厚い体型が共通しています。光背裏面に銘記があり、1476(文明8)年に高野山南谷説法院で開眼供養され、願主は当地に住む行秀という人物、そして「作者筑紫宇佐郡住人清意」と記されています。

清意は宇佐(大分県)からやってきた、諸国を巡って造仏を行う回国の聖(ひじり=民間宗教者)であったとみられます。さらに、同町毛原の西井観音堂でも、仏師清意の個人様式を示す観音菩薩坐像(像高19・3㌢)を確認しました。たいへん活発に造像を行った仏師であったようです。清意が訪れた他の地域でも仏像を造っていたに違いありません。今も日本のどこかで本像とよく似た仏像が、人知れず拝まれていることでしょう。

和歌山県立博物館で開催中の特別展「聖地巡礼―熊野と高野―第Ⅱ期 神仏・祖師の住まう山」の後期展示で公開。9月29日(日)まで。
(県立博物館アドバイザー、奈良大学准教授・大河内智之)

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