−第68回−文化財 仏像のよこがお「大泰寺の十二神将立像」

(右)大泰寺十二神将立像【子神像】 (左)大泰寺十二神将立像【未神像】

(右)大泰寺十二神将立像【子神像】 (左)大泰寺十二神将立像【未神像】

 前回(6月28日号)、那智勝浦町下和田の大泰寺薬師堂の脇壇に安置される、1281(弘安4)年造像の不動明王立像と毘沙門天(びしゃもんてん)立像について触れました。今回は、その二体とともに脇壇にずらりと並ぶ十二神将立像を紹介します。

それぞれ像高43㌢ほどの小像で、頭部に十二支の動物を現し、着甲して、岩座に立つ姿です。一木造りで両手を別材製とし、彩色して仕上げています。『薬師瑠璃光如来本願功徳経(やくしるりこうにょらいほんがんくどくきょう)』によれば、十二神将は薬師如来に従う善神の大将で、各7000の眷属(けんぞく=一族)を引き連れているとされ、薬師如来にすがって祈る人たちを守り、苦難を除いて願いをかなえると説かれています。日本では平安時代後期には十二支と重なり合い、後に干支(えと)の守り本尊という信仰も生まれました。

頭部の大きいプロポーションで、怒りの中にもユーモアのある表情をしています。動きが大きく、力感があり、造像時期は鎌倉時代末期ごろまでさかのぼると見られます。この十二神将像と図像的に近似するのは、奈良県・室生寺十二神将立像(鎌倉時代、重要文化財)で、十二支獣の標識には異なるものもありますが、12体全ての身振りや動勢がそれぞれ対応しています。

十二支獣標識と身振りの両方が一致するのは、子(ね)・丑(うし)・卯(う)・巳(み)・午(うま)・申(さる)・酉(とり)の各像で、丑・卯・午は髪型やよろいの細部までよく似ています。ただし、子・寅(とら)・未(ひつじ)の各像は、大きなかぶとや個性的な髪型、よろいの細部意匠の華やかさなど、単に室生寺像を写したとはいえない個性が発揮されています。中国の仏画からの図像的影響もありそうで、12体全てが残ることも貴重です。

2012(令和24)年度に三菱財団の補助を得て、経年の汚れを落とし、台座のぐらつきを解消する修理を行いました。寺の積極的な保存の動きが、次々に実を結んでいます。
(奈良大学教授・大河内智之)

コーナー

関連キーワード

 

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

おすすめ記事

  1. リビング和歌山2025年8月30日号「自然界の脅威に備えよう 人と自然の“キケンな遭遇” 出合ったらどうしよう!?」
     秋は川や山などへ出かける機会が増える季節です。もしも「クマ」や「スズメバチ」などの危険な生き物た…
  2. リビング和歌山2025年8月23日号「あなたのその行動が働きを鈍くしているかも 免疫細胞のはなし」
     私たちが健やかに過ごすために、身体に備わっている〝免疫〟。忙しい毎日の中でついやってしまう行動が…
  3. リビング和歌山2025年8月9日号「語り継ぐ体験、記録で伝える 戦後80年、未来へ残す記憶」
     1945(昭和20)年8月15日の終戦から、今年で80年を迎えます。戦争を直接体験した人々が少な…
  4. リビング和歌山2025年8月2日号「専門店が続々登場、美と健康をサポートするスーパーフード ブーム再燃!アサイーボウル」
      まだまだ暑さが続く今年の夏。涼しく冷んやりと、そして健康に乗り切るためにアサイーボウルはいかが…
  5. リビング和歌山2025年7月26日号「進化する「北ぶらくり丁」」
     レトロな雰囲気のなかに、遊び心と新しさが交錯する北ぶらくり丁が活気にあふれています。アーケードの…
リビングカルチャー倶楽部
夢いっぱい保育園

お知らせ

  1. 2025/8/28

    2025年8月30日号
  2. 2025/8/21

    2025年8月23日号
  3. 2025/8/7

    2025年8月9日号
  4. 2025/7/31

    2025年8月2日号
  5. 2025/7/24

    2025年7月26日号
一覧

アーカイブ一覧

ページ上部へ戻る