−第52回−文化財 仏像のよこがお「『紀伊国名所図会』高野山図の下絵」

博物館の機能は大別すると「収集」「保管」「展示・教育」「調査研究」に分かれます。その中でも「収集」は資料を意図を持って集め、研究の基盤を作り、展示を構築するための基礎となります。古びたものをからかうような「博物館行き」という言葉がありますが、実際は資料の価値と魅力を「博物館発」で発信するために収集されるのです。収集方法は寄贈を受けたり、預かったり(寄託)する他、古書店などから購入することもあります。

高野山図下絵奥之院部分(県立博物館蔵)

高野山図下絵奥之院部分(県立博物館蔵)

私が学芸員をしていた頃、ある古書店のカタログを見ていて、小さく掲載された資料の写真に目が留まりました。高野山の風景を斜め上から眺めた巻物の一部分のようでした。

高野山を描いた絵図や案内図は多いのですが、同種のものは少なく、それでいてどこかで見たことのある不思議な感覚を覚えました。どうしても気になり、古書店に連絡し、実物を見せてもらいました。

それは高野山の奥之院から、多数建ち並ぶ山上の子院群、壇上伽藍(がらん)、大門手前までの景観を、俯瞰(ふかん)した構図により、全長5㍍に渡って描いた画巻でした。画の中には等間隔で縦のけい線を引いて区切りを設け、子院名をはじめさまざまな注記があり、その注記を朱字で訂正したり、景観部分にも朱での訂正や貼り紙をしたりして、修正が加えられています。

この図を見たとき、全く同じ構図で、しかも朱字などによる修正が反映された図の存在にすぐに気づきました。『紀伊国名所図会』という江戸時代後期に編さんされ、出版された著名な地誌です。その第3編4巻に30ページに渡って分割し、掲載された高野山の景観、その原画だったのです。筆者は、京都の絵師・西村中和(1758~1835年)で、昭和のころに高野山の表具師が装ていしており、元は高野山伝来品であるようです。各地に『名所図会』は数多くありますが、その絵の制作過程が分かる資料は極めて珍しいもので、2021(令和3)年度に和歌山県立博物館に収蔵されました。

同館で開かれている企画展「新収蔵品展」(4月14日まで)で公開中です。
(和歌山県立博物館アドバイザー、奈良大学准教授・大河内智之)

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