すごいぞ!和歌山の底力
業界に新しい風を吹き込み
世界一の日本酒が誕生

リビング和歌山9月24日号「和歌山の底力 世界一の日本酒が誕生」

地元企業の「人」「もの」「こと」の魅力を掘り起こして紹介するシリーズ。第4回目は海南市の蔵元「平和酒造」の4代目、山本典正さんが登場します。日本酒「紀土(きっど)」のヒット商品を生み出し、2020年には世界一の称号も獲得。その成功の裏には山本さんの革新的な組織づくりと蔵人たちの酒造りへの情熱がありました。

酒蔵の個性を反映した
自社ブランド酒に挑む

のどかな田園風景が広がる海南市溝ノ口。四方を山に囲まれた盆地のため、昼と夜の寒暖差が大きく、冬の朝夕は特に冷え込みます。高野山から流れ込む伏流水で井戸の水は潤い、古くから稲作が行われてきました。

気温、水、そして米。酒造りに必要な条件が整ったこの地に、平和酒造は1928年に創業します。現在、代表取締役社長を務める山本典正さんは蔵の4代目。先代である両親が働く姿を幼少時から見て育ち、小学生の時には「経営者になりたい」という思いがありました。京都大学経済学部を卒業後、東京の人材ベンチャー企業に就職したのも「いずれ起業を」という思いがあったから。

3年間勤務した後、先代の体調がよくないこともあり、26歳で帰郷して2004年に平和酒造に入社。日常業務や財務改革、営業回り、酒造りの研修を通し、後継者の視点から平和酒造の今後の方向性を探りました。「当時のうちの主力はパック酒の製造販売でした。大量生産して価格を下げて、大手メーカーに対抗する。業績は悪くありませんでしたが、日本酒の消費量は右肩下がり。手を打たないと後がないと考えていました」

そこで、酒蔵の特徴を生かした自社ブランド酒の開発・販売に乗り出します。実現するには「社内の組織替えと人材改革が不可欠」と山本さんは判断。しかし、それは日本酒業界のしきたりからはみ出した、前代未聞の大改革でした。山本さんの蔵元としての挑戦、そして平和酒造の躍進はここから始まります。

社屋の風情ある門構え。軒下に杉玉がつるされています

社屋の風情ある門構え。軒下に杉玉がつるされています

「自分たちがおいしいと思うお酒を造り続けたい」

技術の共有で品質向上
全社員が担う“責任仕込み”

酒蔵では、熟練の技術を持つ杜氏(とうじ)の監督の下、職人の蔵人(くらびと)たちが酒造りの作業に励みます。山本さんはこの伝統的な組織体制を改め、“社員蔵人制”を導入。大卒者を対象に全国規模で正社員を募集、入社後は全員が作業に携われるよう、杜氏の技術や製造工程をマニュアル化しました。「入社1年目から酒造りを任せます。一人が複数本のタンクを担当する“責任仕込み”です」。業界でも前例のない取り組みでしたが、作業工程を数値化して共有することで、社員一人一人の技術が向上。閉鎖的だった蔵にものづくりによる一体感が生まれ、改善策を提案し合うなどチームワークが育まれました。

「紀土 無量山 純米吟醸」(720ml/2530円)。蔵を始める前の寺名が名前の由来

「紀土 無量山 純米吟醸」(720ml/2530円)。蔵を始める前の寺名が名前の由来

2006年から取り組むブランド酒「紀土」は2008年に発売を開始。研究と改良を重ねながら品質を高め、蔵のメインブランドに成長しました。なかでも「紀土 無量山 純米吟醸」は、世界最大級のワイン品評会「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)2020」のサケ部門で最優秀賞を獲得、世界一の日本酒に認められました。「今までの苦労が報われる思い」と山本さんは話します。

この受賞を機にさまざまな縁がつながり、新事業に展開。今年6月に東京の日本橋兜町にどぶろくのブルワリーパブ「平和どぶろく兜町醸造所」をオープン。またベトナムでは、同国で最大規模のクラフトビールメーカーをパートナーに、日本酒造関連のプロジェクトに参画しています。

今夏には社屋近くに精米棟が完成。「自社の田で育てる酒米『山田錦』を使った、一貫生産の酒造りが実現します」と山本さん。家業を継いで18年。目標はシンプルに、「自分たちがおいしいと思うお酒を造り続けることです」。間もなく創業100年を迎える平和酒造。革新的な挑戦は、これからも続きます。

タンクが並ぶ酒蔵。これから酒造りのシーズンを迎えます

タンクが並ぶ酒蔵。これから酒造りのシーズンを迎えます

できたての、どぶろくが味わえる「平和どぶろく兜町醸造所」

できたての、どぶろくが味わえる「平和どぶろく兜町醸造所」

日本酒、梅酒、クラフトビール
杜氏が接客して美味を伝える

南海和歌山市駅の複合施設「キーノ和歌山」(和歌山市東蔵前丁)内にある、平和酒造のアンテナショップ「平和酒店」。スタイリッシュな雰囲気の中、平和酒造が自信を持って提供する銘酒の数々が並びます。ラインアップは「紀土」をはじめ、梅酒「鶴梅」シリーズや、ビール「平和クラフト」など。さらに、和歌山の本蔵で醸造した「どぶろく」も販売されています。

「平和酒店」の店内。駅に直結しているので、和歌山土産にも

「平和酒店」の店内。駅に直結しているので、和歌山土産にも

「鶴梅」は高品質の梅酒をブランド化したいと山本さんが企画し、2005年から販売。平和酒造の名を一躍広めたシリーズで、県産の南高梅やユズを使った和歌山ならではのリキュールとして好評です。

「平和クラフト」は2016年に商品化。女性ブルワー(醸造家)の髙木加奈子さんが醸造責任者としてビール事業を立ち上げました。杜氏が造るクラフトビールが注目され、平和酒造の新たなファンを獲得しました。なかでも「レッドエール」は、今夏にアメリカで行われた世界最大級のビール品評会「ワールド・ビア・カップ」の、レッドエール部門でゴールドメダルを受賞した旬の味です。

「平和クラフト」シリーズ。ラベルには“平和”の象徴、ハトをデザイン

「平和クラフト」シリーズ。ラベルには“平和”の象徴、ハトをデザイン

どぶろくは蔵のニューフェース。日本酒と同じく、米、米こうじ、水を原料とした醸造酒で、米の甘味やコクを感じる、とろりとした口当たりが特徴です。

和歌山の本蔵で醸造した「どぶろく」。兜町で醸造した「どぶろく」は兜町醸造所だけで販売

和歌山の本蔵で醸造した「どぶろく」。兜町で醸造した「どぶろく」は兜町醸造所だけで販売

店内にはバーカウンターが設けられ、杜氏など酒の造り手が接客します。平和酒造では、「キーノ和歌山」や「平和どぶろく兜町醸造所」などの店舗やイベントにも醸造家たちが自ら店頭に立ち、わが蔵の酒の特徴を説明しています。

酒造りのプロフェッショナルからものづくりの舞台裏を聞きながら、銘酒を選ぶ楽しみ。テイスティングもできるので、「日本酒が苦手…」という人もぜひトライしてみては。未知なる美酒を発見し、喜びに酔いしれてしまうかも。

平和酒造

代表者代表取締役社長 山本典正
創業1928年
本社海南市溝ノ口119
電話番号073(487)0189
ホームページhttps://www.heiwashuzou.co.jp

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