−第7回−文化財 仏像のよこがお「疫病平癒の霊験仏」

疫病平癒の霊験仏

薬師如来坐像(薬師寺蔵)

新型コロナウイルス感染症が世界中で広がり、日常生活にも大きく影響を及ぼす未曽有の事態となっています。

歴史的に人間社会は、常に疫病の脅威にさらされ続けてきました。現代の感染症対策は、医療とともに高度な衛生観念の普及が重要な役割を果たしていて、清潔にして身を守る私たち自身の行動こそが感染症封じ込めの一翼を担っています。

一方、昔の人々は、流行病は疫病神や悪鬼(あっき)の仕業と考え、それらをはらい清めたり、ほこらに祭って鎮めたり、神仏へすがって悪疫退散を祈願していました。

八坂神社(祇園社)の祭神である午頭天王(ごずてんのう)や、各地で信仰を集める薬師如来(やくしにょらい)がその代表です。

紀の川市杉原(すいばら)の薬師寺本尊の薬師如来坐(ざ)像は、像高55・7㌢㍍、ヒノキの一木造りで、円満な頭部の輪郭や起伏の穏やかな体型、緊張を解いて座る姿勢など平安時代後期の作風を示しています。威厳あるその表情にはやや古風なさまも見られ、造像時期は11世紀までさかのぼると見られます。

薬師寺に伝わる縁起によれば、天長3(826)年、国内に疫病がはやった際、弘法大師が像高一尺七寸の薬師如来像を造って7日間祈願したところ、病人は癒え、死者もよみがえる不思議な現象が起こったので、この霊験(れいげん)仏を本尊として薬師寺が建てられたと語られています。

もちろんその造像時期は、弘法大師在世時までさかのぼりませんが、疫病による恐怖から人々を救うため、高僧の名を借りて縁起が形成されたのでしょう。

疫病平癒の霊験仏は、疫病と向き合い続けてきた私たちの歴史を今に伝えてくれています。

※和歌山県立博物館で6月21日(日)まで展示中
(和歌山県立博物館主任学芸員・大河内智之)

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