−第71回−文化財 仏像のよこがお「過疎集落の仏像のゆくえ」

峯地蔵寺旧蔵の地蔵菩薩立像

峯地蔵寺旧蔵の地蔵菩薩立像

 少子高齢化による人口減少が加速度的に進む日本社会で、文化財(地域の歴史や文化の諸相を伝えるさまざまな歴史遺産)を維持継承することが、とても難しい課題となっています。集落から人がいなくなったとき、文化財はどのような未来を描けるのでしょうか。

紀の川市桃山町峯地区は、かつての高野山領細野荘の一角にある山村で、江戸時代後期の地誌『紀伊続風土記』では家数20件、人口は130人の集落でした。現在、いくつかの家は残るものの居住者はもういないようです。生活拠点を別の所に移すなど事情はさまざまですが、集落の過疎化の行き着く先の姿は、どこもこのような様子となります。

村には集落の檀家(だんか)寺の地蔵寺がありました。江戸時代、寛文年間(1661~73)に僧宥賢(ゆうけん)によって建立されたと伝えられます(『紀伊続風土記』)。 私には地蔵寺の思い出があります。和歌山県立博物館に着任したての2001(平成13)年、市町村合併直前の旧桃山町からこの地蔵寺本尊像の調査を依頼され、機材を背負って細い山道を登り、トタン板を張った倉庫のような本堂で調査に取りかかりました。

像高81・2㌢、錫杖(しゃくじょう)と宝珠を手にした寄木造の地蔵菩薩(ぼさつ)立像で、彩色を施し、丁寧に造られた仏像です。経験不足で制作時期の判断に迷い、中世の仏像にみられる表現もあったことから、そのときは室町時代と考えました。その後、調査経験を重ねる中で、実際には中世彫像を学習した、江戸時代前期の堅実な出来栄えの作例と考えるようになりました。

集落の住人がいなくなった後、地蔵寺も長く放置状態となっていました。その状況に憂慮した旧住人の皆さんが、和歌山市の霊現寺に受け入れをお願いし、2019(令和元)年10月に本尊はじめ、全ての什(じゅう)宝が移され、今も大切にまつられています(非公開)。

移動を余儀なくされる文化財の受け入れ先をどうするか。人々が生きた歴史の痕跡を社会全体で残していくための方策を、模索し続けなければなりません。
(奈良大学教授・大河内智之)

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