−第9回−文化財 仏像のよこがお「オオウナギとともに立つ観音像」

オオウナギとともに立つ観音像

夏の「土用の丑(うし)の日」にウナギを食べるという文化があります。『万葉集』にも、大伴家持が夏にウナギを食べることを詠んだ歌があるので、滋養強壮の効果は古くから知られていたようです。今回取り上げるのはウナギではなく、「オオウナギ」を手にした観音像です。

オオウナギはウナギとは別種で、最大で全長2m近くに達します。和歌山では、清流・富田川の下流域一帯がオオウナギ生息地として、天然記念物に指定されています。しかし近年、環境の変化によって住みにくくなり、1985(昭和60)年を最後に大型の個体は確認されていません。

白浜町平下谷地区の蛇行する富田川の水流でえぐられた深みに「濁淵(にごりぶち)」という名が付けられています。この濁淵を見下ろす岩場に、像高116㎝のオオウナギを手にした観音の石像が安置されています。傍らの碑によれば、1966(昭和41)年に「魚籃(ぎょらん)観音」として、矢野楠太郎の他、有志によって造像されたことが分かります。魚売りの美しい女性が、実は観音菩薩(ぼさつ)の化身であったという故事に基づくもので、オオウナギを持つのは全国でもこれが唯一です。

石工であった矢野楠太郎が、付近の岩場で採れる富田石を用いて造像したもので、オオウナギの形や大きさは生物学的にも正確なものです。石切場の眼下にある濁淵の主に敬意を表して、観音像を造ったことを子息が教えてくれました。

富田川のほとりで一生を過ごした石工。心に焼き付けたオオウナギの姿は、富田石に刻まれ、その記憶を共有するモニュメントとして、そしてオオウナギが生息できる豊かな川を取り戻すための象徴として、今も濁淵に立ち続けています。(和歌山県立博物館主任学芸員・大河内智之)

コーナー

関連キーワード

 

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

おすすめ記事

  1. リビング和歌山2025年6月21日号「今さら聞けない 給与明細のミカタ!」
     給与明細を毎月しっかり確認していますか? 給与明細には多くの情報が詰まっていて、ポイントを押さえ…
  2. リビング和歌山2025年6月14日号「 和歌山市の魅力を伝える広告が新大阪駅に 市の職員が制作! 彼女の名は?」
     関西の玄関口となるJR新大阪駅の新幹線改札内で、和歌山市のPR広告が放映されています。広告画像の…
  3. リビング和歌山2025年6月7日号「 甘~い誘惑! ドーナツ店巡り」
     6月第1金曜日の「ドーナツの日」に合わせて今号はドーナツ特集。定番のシンプルドーナツ、クリームが…
  4. リビング和歌山2025年5月31日号「いざというとき、自分の身を守る “護身術”を学ぼう」
     夏は夜の外出やイベントが増える時期。不審者や痴漢、通り魔など犯罪も起こりやすくなります。いざとい…
  5. リビング和歌山2025年5月24日号「価格高騰!令和米騒動 今こそ考えたい、食と農の未来」
     政府が備蓄米を放出したものの、市場への影響は限定的で、米の高騰が続いています。こうした状況だから…
リビングカルチャー倶楽部
夢いっぱい保育園

お知らせ

  1. 2025/6/19

    2025年6月21日号
  2. 2025/6/12

    2025年6月14日号
  3. 2025/6/5

    2025年6月7日号
  4. 2025/5/29

    2025年5月31日号
  5. 2025/5/22

    2025年5月24日号
一覧

アーカイブ一覧

ページ上部へ戻る