−第17回−文化財 仏像のよこがお「長沢蘆雪が描いた栽松道者」

江戸時代中期に活躍した長沢蘆雪(ながさわろせつ、1754~99年)は、1786(天明6)年から翌年にかけて、師の円山応挙の代理として紀南に赴き、草堂寺(白浜町)、無量寺(串本町)、成就寺(古座町)に滞在して多数のふすま絵を描きました。

画題は中国故事や山水などさまざまですが、中でも草堂寺の群猿(ぐんえん)図、無量寺の虎図、成就寺の群狗(ぐんく)図といった動物画は、今にも画面から飛び出てきそうなほど生き生きとして、蘆雪芸術の真骨頂といえる名品ばかりです。

五祖栽松図(重要文化財)・草堂寺蔵

そうした中に、異色の絵画があります。かつて草堂寺本堂仏間のふすまとして描かれ、今は屏風に改装されている五祖栽松図(ごそさいしょうず)です。中国禅宗の初代菩提達磨(ぼだいだるま)、慧可(えか)、僧璨(そうさん)、道信に続く第五祖の弘忍(ぐにん、602~75年)の前世の姿を描いたものです。弘忍は幼い時から仏性があり、老いるまでひたすら松を植えた道者でしたが、道信に出会い、教えを受けるために生まれ変わり、童子(どうじ)となって再び道信の下に参禅した、という伝説があります。ただひたすら松を植え続けることでも悟りの境地に至るという、禅の画題の一つです。
その落款(らっかん)には、「蘆雪指画」と書かれています。蘆雪はこの絵を、指や手のひらで絵を描く指頭画(しとうが)の技法で、「骨相奇秀(こっそうきしゅう)」と表現されるようなごつごつとした風貌と、背を丸めてややうつむいた重量感ある分厚い体格を、高い精神性を伴って描いたのです。

その姿を見て頭に浮かぶのは、1212(建暦2)年に運慶が造像した奈良・興福寺の無著・世親像(国宝)です。当時最新の宋代美術の学習のもと作られた高僧の姿が、江戸時代の蘆雪の絵と通じるのは、そこに中国美術の伝統が脈々と息づいているからでしょう。この絵と向き合うたびに、まるで仏像のような存在感だと、いつも圧倒されるのです。
4月18日(日)まで、和歌山県立博物館の企画展「きのくにの物語絵」で展示しています。
(和歌山県立博物館主任学芸員・大河内智之)

[展示会]
きのくにの物語絵
―絵解きの聖地・和歌山―

寺社仏閣の縁起を題材とした縁起絵や僧・歌人の伝説絵、御伽草子(おとぎぞうし)・戯画の物語絵をはじめ、和歌山県に伝わる「那智参詣曼荼羅(まんだら)」「道成寺縁起」といった絵解きで使われた絵など、計24点が展示されています。
【会期】
4月18日(日)まで
【場所】
和歌山県立博物館(和歌山市吹上)
【開館時間】
午前9時半~午後5時(入館は4時半まで)、月曜休館
【問い合わせ】
073(436)8670
一般280円、大学生170円。高校生以下と65歳以上、障がい者、県内在学中の外国人留学生は無料。毎月第1日曜は無料(会期中は4月4日)
【HP】
県立博物館ホームページ(https://www.hakubutu.wakayama-c.ed.jp/monogatari-e2021/frameset.htm)

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