−第20回−文化財 仏像のよこがお「中世大崎港の面影を伝える仏像」

宝冠釈迦如来坐像(大崎観音堂蔵)

海南市下津町大崎地区は、『万葉集』に「大崎の神の小浜は狭けども百舟人も過ぐと言はなくに」(石上乙麻呂)とうたわれます。大崎の浜は狭いがたくさんの船が立ち寄る、とあるように、古くから風待ちの港として知られていました。

港を一望する高台には稲荷神社が鎮座し、さらに丘を登ったところに観音堂があります。これまで観音講で守られてきましたが、日々の管理も難しくなり、依頼を受けて調査に訪れました。本尊は観音菩薩(ぼさつ)のはずですが、厨子(ずし)を開けて一瞬戸惑いました。像高35.7cm、仏身は銅で鋳造し、その表面に金ぱくを貼るという珍しい技法で作られています。頭上に髪を結い上げているのは菩薩の特徴ですが、体には大衣(だいえ)をまとって袈裟(けさ)を着け、腹前で印を結んだ姿は如来(にょらい)の特徴です。菩薩と如来の重なったその姿は、観音菩薩ではなく、禅宗寺院によく見られる宝冠釈迦如来坐(ざ)像です。

脇には中国式の服装の伽藍(がらん)神の坐像がまつられ、像内には天文10(1541)年の銘記が確認されました。さらに、脇壇の中に同じ銘記のある達磨(だるま)大士の坐像を見つけ、伽藍神とひとそろいの作例と分かりました。

これらの仏像は、本来は禅寺に宝冠釈迦・伽藍神・達磨大士として組み合わされて安置されていたものです。中世、交通の要所となる港には禅寺が設けられ、港の修復の資金調達を担い、人々の交流拠点となっていました。歴史の変遷の中で仏像の名も並び方も変わりましたが、そこには中世の大崎港の面影が、確かに残っていたのです。

※和歌山県立博物館企画展「きのくにの宗教美術」(8月28日~10月3日)で展示されます
(和歌山県立博物館主任学芸員・大河内智之)

コーナー

関連キーワード

 

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

おすすめ記事

  1. リビング和歌山11月30日号「和歌山県、旬の魚を訪ねて漁港巡り美しい紅白模様で際立つ甘み新鮮な足赤えびが人気の漁港」
     今年度、全国のリビング新聞ネットワークが「さかなをたべよう!」キャンペーンを展開中。リビング和歌山…
  2.  和歌山県の温泉といえば、白浜温泉、川湯温泉などをイメージしがち…。いやいや、和歌山市内にも穴場の名…
  3. リビング和歌山11月16日号「デジタル時代だからこそ 手書きに思いを込めて」
     年末といえば、クリスマスカードに年賀状、今年は手書きで思いを伝えませんか。若い世代に注目を集める…
  4. “遺言”と聞くと、“老後になってから”と考える人が多いのでは。しかし、遺言は生前対策の一つとして、…
  5. リビング和歌山11月2日号「夜空を鮮やかに彩る伝統美県下唯一の花火製造会社」
     和歌山県のものづくり企業にスポットを当てたシリーズ、「すごいぞ! 和歌山の底力」。今回は、花火作…
リビングカルチャー倶楽部
夢いっぱい保育園

お知らせ

  1. 2024/11/28

    2024年11月30日号
  2. 2024/11/21

    2024年11月23日号
  3. 2024/11/14

    2024年11月16日号
  4. 2024/11/7

    2024年11月9日号
  5. 2024/10/31

    2024年11月2日号
一覧

アーカイブ一覧

ページ上部へ戻る