−第38回−文化財 仏像のよこがお「丹生都比売神社第三殿の神は誰なのか 」

かつらぎ町上天野の丹生都比売神社は、高野山の鎮守として厚く信仰されています。空海に帰依して高野山の地を譲った地主神である、第一殿の丹生明神と第二殿の高野明神、鎌倉時代初期には第三殿と第四殿が増え、合わせて丹生高野四社明神と呼んでいます。増えた2柱の神は、第三殿が気比神宮(福井県)の祭神気比明神、第四殿が厳島神社(広島県)の祭神厳島明神とされます。

近年、鎌倉時代初期に作られた最古の丹生高野四社明神が、天野に隣接するかつらぎ町三谷の三谷薬師堂から見いだされました。それは丹生明神坐(ざ)像と二軀(にく)の女神坐像で、銅で鋳造するための木型と推定されます。さらに調査を続けると、その木型をもとに鋳造した神像も見つけることができました(個人蔵)。ここでは第三殿の祭神とみられる女神像に注目します。

第三殿の祭神を気比明神とすることについて、現在それを疑う人はいません。しかし、気比明神は伊奢沙別命(イザサワケノミコト)という男神であり、先の神像は明らかに女神ですから、性別に大きな食い違いが生じています。

実は中世の史料では第三殿を気比明神とするものが見当たらず、江戸時代に高野山のトップである検校を務めた懐英(かいえい)という学僧が編さんした『高野春秋』において、初めて明記される神名なのです。

第三殿の祭神は、丹生高野四社明神を賛嘆するために作られた「山王講式」という鎌倉時代の資料では「三大明神」、その後に再編さんされた「明神講式」では「三大神宮」と呼ばれ、丹生明神の娘であると記載。また、1293(正応6)年の「太政官牒(だじょうかんちょう)」では、四社明神中の「三大神」が「蟻通(ありどおし)神」と記されています。

蟻通神は、天野の西北に位置する西渋田の蟻通神社の祭神です。すなわち、第三殿には本来天野周辺の地域神が祭祀(さいし)されていたらしいのです。この三大神をまつる神社が今も若干残ります(有田川町板尾の三大神社など)。なお、「山王講式」「明神講式」では、第四殿の祭神名は「四宮権現」と記されています。

神像の発見をきっかけに、本来の祭神を探求する研究を進めています。わずかに残された記憶の痕跡を紡いで、隠れた歴史を明らかにできればと思います。
(和歌山県立博物館アドバイザー、奈良大学准教授・大河内智之)

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