−第19回−文化財 仏像のよこがお「集落が守り伝えた平安初期の密教仏」

菩薩形坐像(林ヶ峰観音寺蔵)

紀の川市平野の林ヶ峰(はいがみね)地区は、葛城山系の果樹が広がる山ふところの高台にある小集落で、眼下に紀の川を望み、はるか先には高野山に連なる峰々を仰ぐ絶景の地です。2012年1月、集落の集会所を兼ねた観音寺の調査に訪れました。

堂内に入って見渡すと、仏像が並ぶ壇上(だんじょう)の片隅に、総高が25.9cmの小さな菩薩形坐像(ぼさつぎょうざぞう)がありました。ヒノキの一材から彫り出し、髪を高く、太く結い上げ、やや角張った頭部の輪郭や、起伏を抑えた引き締まった体型、前方へ小さく張り出した膝、くっきりと刻まれた弾力感ある衣のしわなど、平安時代初期の密教彫像の特徴が見られます。

結い上げた髪の根元に付けた銅製の飾りや、冠のリボンを背面に垂らす表現は彫像では珍しいものです。しかし、これらは仏の姿を描いた曼荼羅(まんだら)に見られる正統的なもので、その図像を忠実に立体化したことが分かります。9世紀中ごろの密教彫像が新たに見つかるのは、極めてまれなことです。

その後の調査で、山の反対側、大阪府和泉市の施福寺にも同時期のよく似た像が伝わっていることが分かりました。本来は、大きな仏像の光背に多数取り付けられた化仏(けぶつ=仏の分身)であったと見られますが、これだけ水準の高い仏像が安置される寺院は限られます。ちょうど高野山壇上伽藍(だんじょうがらん)の大塔の創建時期とも合致するので、もしかすると高野山から伝わった仏像かもしれないと、ひそかに考えています。

1200年の時を超え、山中の小集落で守り伝えられた密教仏が、これまで眺めてきた光景がどんなものであったか、興味は尽きません。

(和歌山県立博物館主任学芸員・大河内智之)

コーナー

関連キーワード

 

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

おすすめ記事

  1. プレミア和歌山認定品の毬玉アクセサリー、天然石や真鍮のアクセサリーやビーズ・スパンコール刺繍の作品…
  2. リビング和歌山4月27日号「 和歌山の平安時代を旅する 光る紀伊へ」
     平安時代ブーム。かつての皇族や貴族は、こぞって高野山や熊野三山を参詣し、聖地とその旅路にさまざま…
  3. リビング和歌山4月20日号「知ってた?有田市に国内最大級のチューブスライダー出現」
     3月23日、有田市初島町に誕生した健康スポーツ公園「BIG SMILE PARK(ビッグ・スマイ…
  4. おさかな、食べていますか? 海に囲まれたニッポンは、種類豊富な水産物に恵まれています。今年度、全国…
  5. リビング和歌山4月6日号「生地卸商から始まり 多角化戦略で進化する 老舗100年企業」
    地域経済をリードする地元企業の魅力に迫る「すごいぞ!和歌山の底力」シリーズ。今回は和歌山市に根付い…

電子新聞 最新号

  1. リビング和歌山4月27日号「 和歌山の平安時代を旅する 光る紀伊へ」

    2024/4/25

    リビング和歌山4月27日号

    リビング和歌山4月27日号  平安時代ブーム。かつての皇族や貴族は、こぞって高野山や熊野三山を参詣し…
バックナンバー
リビングカルチャー倶楽部
夢いっぱい保育園

お知らせ

  1. 2024/4/25

    2024年4月27日号
  2. 2024/4/18

    2024年4月20日号
  3. 2024/4/11

    2024年4月13日号
  4. 2024/4/4

    2024年4月6日号
  5. 2024/3/28

    2024年3月30日号
一覧

アーカイブ一覧

ページ上部へ戻る