−第11回−文化財 仏像のよこがお「霊験あらたかな粉河観音」

霊験あらたかな粉河観音

西国三十三所第3番札所の粉河寺は千手観音を本尊とします。千手観音は11の顔、千本の手、そして手のひらに千の眼があり、あらゆる世界の苦しむ人々を救済する、と『千手陀羅尼(だらに)経』に記されます。千の手は、実際には四十二手で表すのが一般的ですが、その多数の手は人々に確かに救済が及ぶことを実感させるものです。

11世紀初めごろ、清少納言が記した『枕草子』に「寺は、壺坂(つぼさか)。笠置。法輪。(中略)石山。粉河。志賀」とあり、粉河寺は名だたる観音霊場と並んでその名が知られていました。その背景には、粉河観音の霊験を語る粉河寺縁起の存在がありました。

粉河寺縁起では、観音の化身である童行者(わらわぎょうじゃ)が、猟師の求めに応じて観音像を作って寺の始まりとしたこと、そして重い病にかかった左大夫(さだゆう)の子を千手陀羅尼の功徳で癒やしたことが語られ、粉河観音が「生身(しょうじん)」、すなわち眼前に姿を表す救済者であることを示します。平安時代末にはこの縁起を元に、人名や地名、筋書きを改変した縁起絵巻が後白河法皇の周辺で制作され、今に伝わります。

千手観音立像(粉河寺蔵)

霊験あらたかな粉河寺の本尊像は絶対の秘仏で、前立ち(分身)もまた秘仏なので、参詣者が対面できるのは本堂背面に北面して立つ千手観音像です。近年の修理の際、江戸時代の本堂火災後に、平安時代後期の優美な観音像を千手観音に改変して作られたと分かりました。しかし疑問が一つあります。本来、粉河観音は左肩に赤い布を掛けるのが約束事ですが(在原業平の妻が童行者に紅はかまを布施した伝承から)、この像には見られません。もしかすると、かつては本物の布を肩に掛けていたのかも知れません。和歌山県立博物館の特別展「国宝粉河寺縁起と粉河寺の歴史」で展示(10月17日~11月23日)。(県立博物館主任学芸員・大河内智之)

コーナー

関連キーワード

 

交通安全バナー2023贈呈式

交通安全バナー2023贈呈式

おすすめ記事

  1.  気持ちよく縁起のいい新年を迎えるために、大掃除は早めに。今回は、出張掃除のプロに汚れをすっきり落…
  2. リビング和歌山11月25日号「医療費削減と環境保全を目指す団体が設立 コメで健康をいただきま〜す」
     近年、栽培や加工法などによって、おいしく、しかも栄養成分を多く含む機能性を持つコメの需要が拡大。…
  3. リビング和歌山11月18日号「和歌山駅前から和歌山城まで! 2kmの並木道がイルミネーションで彩られる KEYAKI LIGHT PARADE(ケヤキライトパレード)」
     この冬、街路樹230本に、約70万球ものLEDライトが灯(とも)される、光り輝くイルミネーション…
  4. リビング和歌山11月11日号「和歌山の魅力をグッズで発信! ワカワカプロジェクト始動 第1弾は“中華そば”Tシャツ」
     ラーメン鉢から顔が出て麺をすするインパクトのあるイラストに、ローマ字で「中華そば」。和歌山ラーメ…
  5. リビング和歌山11月4日号「バリアフリー競技として楽しめる北欧発のスポーツ 「モルック」の人気拡大中!」
     フィンランド発祥のスポーツ「モルック」。ルールが簡単で、家族や仲間と気軽に楽しめると、日本でも人…

電子新聞 最新号

  1. リビング和歌山12月2日号「出張サービス「てとちゃ」のプロに聞く 洗剤と道具選び、大掃除の秘訣」

    2023/11/30

    リビング和歌山12月2日号

    リビング和歌山12月2日号  気持ちよく縁起のいい新年を迎えるために、大掃除は早めに。今回は、出張掃…
バックナンバー
リビングカルチャー倶楽部
夢いっぱい保育園

お知らせ

  1. 2023/11/30

    2023年12月2日号
  2. 2023/11/23

    2023年11月25日号
  3. 2023/11/16

    2023年11月18日号
  4. 2023/11/9

    2023年11月11日号
  5. 2023/11/2

    2023年11月4日号
一覧

アーカイブ一覧

ページ上部へ戻る