−第16回−文化財 仏像のよこがお「万蔵地蔵と葛城修験」

2020(令和2)年に「葛城修験―里人とともに守り伝える修験道はじまりの地」が日本遺産に登録されました。葛城修験とは役行者(えんのぎょうじゃ)ゆかりの葛城山系の山々を巡る修行の体系で、友ヶ島から葛城山を通って二上山の先まで、法華経の内容に対応した28カ所の経塚をたどって歩きます。

その第6番経塚と第7番経塚の間、葛城修験の道と和歌山と大阪をつなぐ大木越(県道62号線)の道が交差する山中、紀の川市神通の旧道沿いに、万蔵地蔵と呼ばれる石仏を安置する小堂があります。

万蔵地蔵(地蔵菩薩坐像)

昨年10月に調査に訪れ、世話役に扉を開けてもらって驚きました。総高134㌢、先端に金属の輪が付いたつえ・錫杖(しゃくじょう)を持ち、舟形光背を背負って座る地蔵菩薩坐像(ぼさつざぞう)で、光背・本体・花を形どった台座蓮肉部までと、その下にある台座迎蓮(ぎょうれん)部を別々の砂岩で造って組み合わせており、その大きさも作り方も、どちらをとっても並の石仏ではありません。胸を張って肩をいからせた体型は堂々として、錫杖頭や迎蓮の蓮弁は深く刻まれて立体感があります。造像は南北朝時代、14世紀にさかのぼります。

さらに、背面をのぞき込んでまた驚きました。溝をV字に深く刻む薬研(やげん)彫りの技法で不動明王を表す梵字(ぼんじ)「カンマン」が大きく刻まれていたのです。室町時代に記された葛城修験の修行記である『葛城峰中記』に「満蔵 不動堂、弁才天、石地蔵有リ」とあり、このころ修験者を守護する不動明王をまつった不動堂もここにあったことが分かります。

修験の道と大木越えの重なるこの地で、修験者たちは地蔵菩薩と不動明王を重ねた万蔵地蔵を拝み、道中の無事を祈り山中を歩んでいったのでしょう。穏やかなほほ笑みを浮かべた万蔵地蔵は、幾万もの修験者をこの地で見守り続けてきたのです。(和歌山県立博物館主任学芸員・大河内智之)

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