−第24回−文化財 仏像のよこがお「阿弥陀如来から薬師如来に変身した仏像」

大泰寺 阿弥陀如来坐像

大泰寺 阿弥陀如来坐像

那智勝浦町下和田の大泰寺は、伝教大師最澄の開山と伝わる古い寺です。信仰の中心となる薬師堂には、本尊として1156(保元元)年に造像された阿弥陀如来坐(ざ)像(重要文化財)が安置されています。像高106センチ、ヒノキ材を用いた寄せ木造りで、円満な頭部や穏やかな起伏の体、整然と並べた衣のしわやひだの表現など、平安時代後期の特徴が典型的に見られます。

薬師堂の本尊が阿弥陀如来像なのは、ずいぶんと不思議なことです。しかし、その姿を確認すると、左手には薬壺(やっこ)を載せています。言うまでもなく薬師如来の標識です。これは一体どういうことでしょうか。

本像の像内には「奉造立六尺阿弥陀仏一体・右為過去尊霊法橋尊誉・滅罪生善往生極楽頓證」と記されています。法橋尊誉(ほっきょうそんよ)という那智山の僧が、過去尊霊と自らの滅罪と極楽往生を祈り、「六尺阿弥陀仏一体」を作ったようです。他にも、銘文には『往生要集』などから引用した阿弥陀如来の功徳が記されていますので、この仏像が本来は阿弥陀如来として造像されたことは確実です。1969(昭和44)年に重要文化財に指定される際に、この銘文情報を重視して、薬師如来の姿ながら「阿弥陀如来」を指定名称としたのです。

薬師堂には、薬師如来の脇侍(きょうじ)として、鎌倉時代後期ごろに造像された日光菩薩像と月光菩薩像、そして十二神将像がまつられていますので、造像から150年ほど後にはすでに阿弥陀から薬師へと変身していたと見られます。最澄が自ら刻んだと語り継がれた薬師如来像は、阿弥陀如来の歴史をもその内に秘めつつ、人々のあつい信仰を一身に受けて伝わってきたのです。(和歌山県立博物館主任学芸員・大河内智之)

 

コーナー

関連キーワード

 

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

おすすめ記事

  1. リビング和歌山12月7日号「手作りで迎えるクリスマス ミニチュアフードの世界」
    指先に乗るほど小さいのに、本物と見間違えるほど精巧に仕上げられたミニチュアフード。今年の暮れは、作…
  2. リビング和歌山11月30日号「和歌山県、旬の魚を訪ねて漁港巡り美しい紅白模様で際立つ甘み新鮮な足赤えびが人気の漁港」
     今年度、全国のリビング新聞ネットワークが「さかなをたべよう!」キャンペーンを展開中。リビング和歌山…
  3.  和歌山県の温泉といえば、白浜温泉、川湯温泉などをイメージしがち…。いやいや、和歌山市内にも穴場の名…
  4. リビング和歌山11月16日号「デジタル時代だからこそ 手書きに思いを込めて」
     年末といえば、クリスマスカードに年賀状、今年は手書きで思いを伝えませんか。若い世代に注目を集める…
  5. “遺言”と聞くと、“老後になってから”と考える人が多いのでは。しかし、遺言は生前対策の一つとして、…
リビングカルチャー倶楽部
夢いっぱい保育園

お知らせ

  1. 2024/12/5

    2024年12月7日号
  2. 2024/11/28

    2024年11月30日号
  3. 2024/11/21

    2024年11月23日号
  4. 2024/11/14

    2024年11月16日号
  5. 2024/11/7

    2024年11月9日号
一覧

アーカイブ一覧

ページ上部へ戻る