−第25回−文化財 仏像のよこがお「社殿の床下に隠された仏像」

海南市大野中の県立海南高校裏の小高い丘に鎮座する春日神社は、古くは大野郷八か村の鎮守社でした。“大野十番頭”と呼ばれる地域の有力者たちによる護持の体制が、中世以来、現在まで引き継がれてきた歴史ある神社です。

2007(平成19)年に所用で神社を訪れた際のことです。目的の調査が済んだ後、宮司に連れられて、板に囲まれた社殿床下の空間をのぞかせてもらいました。驚いたことにそこには、暗闇の中、土間の上でこちらを向いて立っている仏像が見えました。

像の大半がヒノキの一木から彫り出された像高68.9cmの天部形立像で、両手は後の時代の部材に取り替わっています。眉を寄せて目を見開いた怒りの表情は穏やかで、鎧(よろい)をまとった重量感ある体型はくびれが強調されず、平安時代後期、11世紀ごろの特徴を示しています。

なぜこんなに古い仏像が、社殿床下にあったのでしょうか。

春日神社境内には、かつては社殿とともに金剛院神宮寺、本地堂、大師堂が建ち並んでいました。しかし、明治初年の政府による神仏分離政策により、これら仏教に関わる建物は撤去され、まつられていた仏像もどこかへと移されました。この仏像はそれらの堂舎に安置されていたものの一つ、または社殿内に安置された神体であったのかもしれません。

神社には、明治時代の神主・三上美作守(かみ)が、弁才天を描いた仏画を「厳島姫(いちきしまひめ)神絵像」と名を変えることで残したものも伝わっています。神主の尽力で神仏分離の嵐を乗り越えた仏像は、春日神社の重層的な信仰の場の様子を今に伝えています。

企画展「仏像は地域とともに―みんなで守る文化財―」(1月29日~3月6日)で公開されます。
(和歌山県立博物館主任学芸員・大河内智之)

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コーナー

関連キーワード

 

交通安全バナー2023贈呈式

交通安全バナー2023贈呈式

おすすめ記事

  1. リビング和歌山5月27日号「親子で話そう、考えよう「子宮頸がん予防」9価ワクチンが今年4月から公費に」
     子宮頸がん予防を期待できる9価HPVワクチンが今年4月から定期接種の対象となり、公費で受けられる…
  2. リビング和歌山5月20日号「ノスタルジックな漁師町に新しい風 雑賀崎でまち散歩」
     日本のアマルフィと呼ばれる街並みの風景がノスタルジックな漁師町・雑賀崎。まちを見下ろす高台に新し…
  3. リビング和歌山5月13日号「心に余裕 出張サービス「てとちゃ」 」
     毎日の家事や育児をもっと楽しく豊かにするためには、ゆとりの時間が必要です。今、子育て家族を支援す…
  4. キラキラDECOシール・キーホルダー・ブローチやプリザーブドフラワーを使った室内飾り、クリスタルを…
  5. リビング和歌山4月29日号「約100年の時を経た「湯浅駅旧駅舎」から始める ゆる〜り湯浅トリップ 」
     醤油(しょうゆ)醸造発祥の町として名高い、湯浅。その玄関口となるJR湯浅駅の旧駅舎が、5月14日…

電子新聞 最新号

  1. リビング和歌山5月27日号「親子で話そう、考えよう「子宮頸がん予防」9価ワクチンが今年4月から公費に」

    2023/5/25

    リビング和歌山5月27日号

    リビング和歌山5月27日号  子宮頸がん予防を期待できる9価HPVワクチンが今年4月から定期接種の対…
バックナンバー
リビングカルチャー倶楽部
夢いっぱい保育園

お知らせ

  1. 2023/5/25

    2023年5月27日号
  2. 2023/5/18

    2023年5月20日号
  3. 2023/5/11

    2023年5月13日号
  4. 2023/4/27

    2023年4月29日号
  5. 2023/4/20

    2023年4月22日号
一覧

アーカイブ一覧

ページ上部へ戻る