−第34回−文化財 仏像のよこがお「夏瀬の森に秘められた神像」

田殿丹生神社の2対の丹生明神・高野明神坐(ざ)像

田殿丹生神社の2対の丹生明神・高野明神坐(ざ)像

有田川の北岸に接した有田川町出地区に、遠くからもその神奈備型(かんなびがた=神が宿る整った三角の山)の秀麗な姿を伺うことのできる白山があります。各所に大きな磐座(いわくら)が露頭した標高166メートルの山頂には、白山神社の小さな祠(ほこら)があり、麓には田殿丹生(たどのにう)神社の社殿が建ち並びます。

社頭すぐ前の川岸には、かつてはクスノキが林立し、「夏瀬の森」と呼ばれています。今は樹叢(じゅそう=自生樹木が密生している林地)が縮小したものの、樹高22メートルのクスノキの大樹(和歌山県指定文化財)が、その面影を伝えています。川と巨木、神奈備型の山の重なりは、はるか昔からこの場が聖地であり続けたことを感じさせる神秘的な景観です。

昨年、幸いなことに田殿丹生神社の神像を調査する機会を得ました。新たな御神体と交代し、社殿から遷(うつ)された4体の神像を拝見して驚きました。2組の男女一対の像で、それぞれ丹生明神と高野明神を表していることがすぐ分かりましたが、驚いたのはその古さです。虫食いが進んで傷みの目立つ一対は、作風から11世紀ごろの作例で、もう一対は12世紀ごろの作例と見られました。11世紀ごろの像は、今のところ確認されている丹生明神・高野明神像の中では最古の事例といえます。

かつて丹生明神をまつる際に読み上げられた「丹生大明神告文」という祝詞(のりと)があります。10世紀ごろの成立と見られるその古い祝詞には、丹生明神が最初に庵田村石口(かつらぎ町三谷)に天降った後、各地を巡幸。最後に天野(同町上天野)に鎮座する途中、「安梨諦ノ夏瀬丹生(ありたのなつせにう)」を訪れ、聖域化したことが記されています。

当地の丹生明神信仰の歴史は古く、今回見いだされた神像もまた、そのことを裏付けています。約千年の時を超え、夏瀬の森の奥に秘められてきた神々の姿が、祈りの歴史を語りかけています。

(和歌山県立博物館アドバイザー・奈良大学准教授・大河内智之)

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