−第3回−文化財 仏像のよこがお「仏像は歴史のタイムカプセル」

仏像は歴史のタイムカプセル

2014(平成26)年の年末、かつて県内で町史編さんに携わっていた知人から電話がありました。すさみ町の「持宝寺」の本尊を修理に出したら、像内から銘(めい)文が見つかったとのこと。情報提供に感謝し、急いで寺へと向かいました。

勢至菩薩(左)・阿弥陀如来(中)・観音菩薩(右)を組み合わせた「阿弥陀三尊像」(持宝寺蔵)

寺は稲積(いなづみ)島の神秘的な島影が浮かぶ周参見浦の近く。到着すると、修理途中で部材を解体した状態の仏像3体が、修理仏師の工房から戻ってきていました。

仏像は、阿弥陀如来・観音菩薩(ぼさつ)・勢至菩薩を組み合わせた「阿弥陀三尊像」で、阿弥陀如来立像の像内には「延元元(1336)年」の年紀とともに、仏師僧「浄慶」と願主「快尊」の名、観音菩薩立像の像内には「建武4(1337)年」の年紀が記されていました。造像時期と制作者が判明する重要な基準作例の発見です。

浄慶について調べるうち、嘉暦4(1329)年に「真巌寺(しんがんじ)」(三重県尾鷲市九鬼浦)の「薬師如来坐(ざ)像」を造像した仏師と同一人物であることを突き止めました。

穏やかながらも明快な表情、着衣のしわを意匠的に細かく刻む作風が共通しています。周参見浦と九鬼浦は100kmほど離れていますが、ともに熊野三山を中心とした文化圏にあり、浄慶はおそらくこの一帯を活動基盤とする熊野の仏師だったのでしょう。

ちなみに、「延元」は南朝方、「建武」は北朝方の元号です。南北両朝の元号を一連の作例で用いるのは珍しく、造像の途中に在地勢力と中央の政治体制との関係に変化があったと考えられます。

銘文の出現が、時を経て忘れられてしまった地域の歴史をよみがえらせました。そう、仏像は歴史を封入したタイムカプセルなのです。
(和歌山県立博物館主任学芸員・大河内智之)

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