−第61回−文化財 仏像のよこがお「阿須賀神社の国宝神像」

阿須賀神社の本地仏・大威徳明王の姿

阿須賀神社の本地仏・大威徳明王の姿

 熊野三山のうち、新宮は熊野川河口部の太平洋に面する開けた地に聖地が形成されています。その中核は熊野速玉大社ですが、さらに2つの拠点的な神社があります。

一つは、神倉神社です。神倉山上のゴトビキ岩を神体とする磐座(いわくら)信仰の場で、周辺には破砕された銅鐸(どうたく)や多数の経塚も確認されています。現在は岩の脇に社殿が建ちますが、江戸時代までは巨岩に懸造(かけづくり)の大きな拝殿が取り付いていました。海上から視認できる新宮のランドマークであり、『古事記』や『日本書紀』の神武東征伝の中に現れる熊野神邑(みわむら)の天磐盾(あまのいわたて)はこの山塊を指すとみられます。

もう一つは、阿須賀神社です。熊野川に接する蓬莱(ほうらい)山に鎮座し、境内には弥生時代の遺跡も確認されます。その社名は河口に現れる砂地や砂州を指す言葉である洲処(すか)に由来します。太平洋の波が押し寄せる熊野川河口には砂がたまって砂州ができ、河口閉塞(へいそく)が発生します。閉塞時に雨が降ると、河水があふれて水害が起きるので、洲処を祭る場が形成されたのでしょう。

平安時代後期成立の熊野権現御垂迹(ごすいじゃく)縁起(『長寛勘文』所収)には、熊野の神々は唐から飛来して神倉峰に降り立ち、その61年後に阿須賀社の北に勧請したと記されます。新宮における祭事の場が連動して聖地群を形成してきたことを読み取れます。その後、熊野の神々に本地仏(神の正体である仏)が設定されると、神倉神社には愛染明王、阿須賀神社には大威徳明王が充てられました。

前回コラム(第60話、11月30日号)でも紹介したように、熊野速玉大社には平安時代前期の雄大な姿の神像が伝来し、国宝に指定されています。同様に、かつて阿須賀神社にも国宝の神像が伝わっていました。

1897(明治30)年に古社寺保存法による最初の国宝指定がされた際、熊野速玉大社の夫須美大神坐(ざ)像などとともに、阿須賀神社の速玉神・夫須美神・奇御食(くしみけ)神の木造が国宝となっています。しかし、残念なことに1945(昭和20)年7月の新宮空襲により焼失しました。これら神像については、その姿や大きさなど、一切の記録がありません。いかなる像であったのか、その手がかりを探し続けています。
(奈良大学准教授・大河内智之)

コーナー

関連キーワード

 

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

おすすめ記事

  1. リビング和歌山2025年12月6日号「和歌山市内の5つの社寺を参拝 御朱印にときめく小旅へ」
     和歌山市内の5社寺を訪れて御朱印を集める「紀州神仏霊場巡り」が来年4月末まで行われています。全て…
  2. リビング和歌山2025年11月29日号「新たな視点で魅力を発掘し、情報を発信 岩出市地域おこし協力隊着任」
     JR岩出駅前に観光案内所の整備を進めている岩出市。市が初めて募集した地域おこし協力隊も着任し、“…
  3. リビング和歌山2025年11月22日号「昨年よりさらに進化!冬の街を彩る130万の光 KEYAKI Light Parade」
     今年も、けやき大通りがキラキラとした光と笑顔に包まれる季節がやってきます。今年で3年目となる冬の…
  4. リビング和歌山2025年11月15日号「和歌山県の手仕事を訪ねて丈夫で温かみのある風合い手すき和紙の伝統をつなぐ」
     書や工芸、日用品など、暮らしの中で、広く親しまれてきた「和紙」。植物・コウゾと、その繊維を均一に…
  5. リビング和歌山2025年11月8日号「「もしもノート」を活用して 始めてみよう“人生会議”」
     11月30日は、「人生会議の日」。厚生労働省により定められたものですが、“人生会議”って何? 今…
リビングカルチャー倶楽部
夢いっぱい保育園

お知らせ

  1. 2025/12/4

    2025年12月6日号
  2. 2025/11/27

    2025年11月29日号
  3. 2025/11/20

    2025年11月22日号
  4. 2025/11/13

    2025年11月15日号
  5. 2025/11/6

    2025年11月8日号
一覧

アーカイブ一覧

ページ上部へ戻る