−第22回−文化財 仏像のよこがお「あらぎ島を見守る真鍮製の仏像」

菩薩形立像(松葉観音堂蔵)有田川町清水のあらぎ島は有田川上流にあり、舌状の河岸段丘(川に向かって階段状になっている地形)に耕された美しい棚田の景観で知られ、国の重要文化的景観に選定されています。

この棚田は、1655(明暦元)年に大庄屋の笠松左太夫によって開発されたものです。佐大夫はこの地に観音堂を建てようと願っていたものの果たせませんでした。ようやくその4代後の笠松惣兵衛が、廻国聖(かいこくひじり=仏教僧)が置いていったという観音像を、同町中原の善福寺から譲り受け、1777(安永六)年、近くの高台に松葉観音堂を建てて安置したことを、「松葉堂観音御由来縁起」(個人蔵)が伝えています。

松葉観音堂の仏像は、像高25.2cm。髪を結い上げて、華麗な宝冠からリボンが垂れ、胸には豪華な飾りを表した金属製の菩薩(ぼさつ)立像で、両腕と別鋳の台座は失われています。

童顔の穏やかな表情が魅力的で、白鳳(はくほう)時代(7世紀)の作とされますが、作風や形状の一致する比較作例には恵まれません。2009(平成21)年に行われた蛍光Ⅹ線分析の結果も意外なものでした。銅とともに亜鉛が検出され、真鍮(しんちゅう・黄銅)製であることが分かったのです。

一般的に、日本では真鍮が盛んに用いられたのは江戸時代以降とされますが、中国・朝鮮半島では古くから工芸品での使用事例があります。真鍮製と分析された古代の仏像はまだ見つかっておらず、判断が大変難しいのですが、三国時代から高麗(こうらい)時代ごろまでを含めた、朝鮮半島製の可能性を考えておきたいと思います。

あらぎ島を見守る仏像は何者なのか。東アジアの鋳造史において近年注目される真鍮(黄銅)研究の進展が、それを知る鍵を握っています。

※10月3日(日)まで開催中の和歌山県立博物館企画展「きのくにの宗教美術―神仏のさまざまな姿―」で展示中
(和歌山県立博物館主任学芸員・大河内智之)

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