−第51回−文化財 仏像のよこがお「交じり合う縁起と信仰を描く」

千手観音像(中)と丹生明神(左)・役行者像(右)(和歌山県立博物館蔵)

 粉河寺の本尊千手観音は、生身(しょうじん)の観音として信仰されています。生身とは、仏が生きた体を伴いこの世に現れたことを示し、粉河寺の縁起(漢文縁起と和文縁起)には、それを伝えるエピソードが多数載せられています。

漢文縁起では2つの物語が語られます。1つは、猟師の大伴孔子古(おおとものくじこ)が山中に光る土地を見つけ、そこに寺を建てようと発願したところ、観音の化身の童男行者(どうなんぎょうじゃ)が現れ、その身を等身の千手観音像に変えた話。もう1つは大病を患った子のもとに童男行者が現れ、観音の呪文を唱えると治り、礼として受け取った鞘(さや)を付けた帯を粉河寺の本尊像が手に持っていたという話です。観音が人々に交わり目の前に現れ助けてくれるという霊験あらたなか話こそが、粉河寺が今日まで継承される原動力であったのです。

和歌山県立博物館が所蔵する千手観音像は、まさにその霊験を一幅に描き出しています。千手観音像(画像(中))の右脇手には鞘を付けた帯を持ち、左肩に掛ける緋袴(ひばかま)も別の縁起話を示します(和文縁起第三段)。観音の足下、右には童男行者が御池の中の鈎樟(まがりくす)の根元に座る姿が、左には束帯姿の大伴孔子古が描かれています。御池は粉河寺塔頭御池坊の境内にある聖蹟(せいせき)です。桃山時代ごろに描かれたもので、箱に「千手千眼像一幅粉河寺浄土院中」と記され、元は粉河寺の塔頭浄土院(廃絶)に伝わったものと分かります。

この図には束帯姿の丹生明神像(画像左)と役行者像(同右)が付属します。寺伝では丹生明神と大伴孔子古は同体とされ(『粉河寺縁起霊験記』)、役行者は粉河寺と葛城修験の深いつながりをうかがわせます。交じり合う縁起と信仰の文脈を読み取れば、そこには豊かな粉河寺の歴史が浮かび上がってきます。同館の企画展「新収蔵品展」で、4月14日(日)まで公開中。(県立博物館アドバイザー、奈良大学准教授・大河内智之)

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