−第72回−文化財 仏像のよこがお「盗まれた仏像の行方」

中津川行者堂の役行者と前後鬼像

 全国で仏像が盗まれる被害が発生しています。一昨年8月頃に奈良県當麻寺(たいまでら)念仏院で2体が盗まれた事件(取り戻し済み)や、昨年9月~10月にかけて福島県三春町と周辺市町で120点以上の仏像や仏具が盗まれた事件が記憶に新しいところです。

狙われているのは著名な寺社ばかりではなく、各地の集落で人々のよりどころとして維持されてきた小さな寺社や堂、祠(ほこら)です。窃盗犯の目的は換金で、さまざまな経路から古美術市場に流れています。

インターネット上で誰でもたやすく購入できるオークションサイトの隆盛により、古美術品愛好の裾野が広がり需要も増えていて、換金目的の窃盗犯の出現を誘発しています。そして、もう一つの大きな要因が人口減少と高齢化です。集落内の身近な寺社の管理が人手不足で難しくなり、犯罪の抑止力が低下しているところを、窃盗犯に狙われているのです。こうした状況は、今後さらに深刻化していきます。文化財受難の時代といえるでしょう。

和歌山県でもこうした仏像盗難被害がたびたび発生しており、2008(平成20)年からの10年間で約300点が盗まれています。盗まれた仏像のゆくえを実例から見てみましょう。

紀の川市中津川の中津川行者堂は、粉河寺の北方2㌔の山中にあり、毎年春に京都・聖護院の行者による盛大な採燈護摩供が行われる葛城修験の聖地です。その本尊の役行者と前後鬼像が2010年8月に盗難被害に遭いました。

同年春から1年間に県内60カ所で仏像172体、仏具類90点という空前の盗難被害が発生し、翌年4月にようやく犯人が逮捕されました。幸い役行者像は売り払い先の古美術商から取り戻すことができましたが、前鬼と後鬼の2体は転売された後でした。後鬼像(写真左側)については、後に情報が寄せられ、オークションサイトで販売されていた痕跡をつかむことができましたが、その行方は不明です。

盗まれた仏像は多くの場合戻ってきません。それゆえに盗まれないための早急な対策が必要です。私たちの歴史を象徴する文化財を、所有者だけに責任を負わせず、みんなで守る効果的な方法を模索しなければなりません。
(奈良大学教授・大河内智之)

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