雨、あめ

雨の日のうれしい発見
雨音さえ聞こえてきそう

雨の日の外出は気が重いものです。自由業の特権は定時出社がなく拘束時間も少なく、時間調整をできることですが、お天気だけは何ともしがたく、「なんでこんな雨の日に打ち合わせが」とブツブツ言いながら駅までの道を歩いていました。目の前を、傘を差して歩く親子がいました。女の子は3歳ぐらい、寄り添う男性は父親でしょうか。

ぼんやりと2人を見ていたら、突然、水たまりを見つけた女の子が走り出し、「入ったら汚れるよね。入ったらダメだよね」と言いながら、うれしそうにバシャバシャと音を立てて水たまりに入っていったのです。女の子はレインコートを着て長靴を履いていましたが、隣のお父さんはスーツ姿。当然跳ね上がった泥水で洋服は汚れました。でもこのお父さん、怒るどころか笑っているのです。

『雨、あめ』(出版=評論社、作・ピーター・スピアー)は、雨降りの一日を描いた絵本です。突然降り出した雨の中を探険に出掛けて行く姉と弟。お母さんは傘を差しかけ、2人を快く送り出します。

ぬかるみにつけた足跡、濡れてしまった洗濯物、電線に止まって雨宿りする鳥たち。樋(とい)から流れ落ちる雨を、傘を逆さまにして受けて遊んでいます。圧巻は見開きページいっぱいに描かれた波紋。クルクルと流れるような動きのある波紋からは雨音さえ聞こえてきそうです。クモの巣に光る雨粒もきれい。雨や滴が、ここにも、こんなところにもと細やかに描かれ、雨の日の楽しさを伝えてくれます。ページをめくるごとに楽しい発見があるのです。

家に戻った後も雨は止まず、2人が眠った後は嵐となって夜通し降り続きます。そして翌日、きれいに晴れて広がった青空。雨が洗い流してくれた風景の美しさ。

この絵本にはことば(文字)がありません。ことばのない絵本は自分の持っているもの、感性であったり、経験であったり、遊び心であったり…が試されます。表紙の犬は濡れています。ブルブルっと体を震って水をはじく場面を想像するだけで愉快ですね。

名前なりきよ ようこ
プロフィル絵本編集者として勤務後、渡欧。帰国後フリーに。
保育所や小学校で読み聞かせを25年以上続けている。絵本creation(編集プロダクション)代表

子育て・教育

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