−第41回−文化財 仏像のよこがお「藤白神社の熊野三所権現本地仏坐像 」

熊野三所権現本地仏坐像

熊野三所権現本地仏坐像

 海南市藤白の藤白神社は、熊野三山への参詣道沿いにある九十九王子の中でも特に重要な「五体王子」と呼ばれる王子社の一つです。王子社には本来、修行者を護持する金剛童子がまつられ、参詣者は王子社を一つずつたどりながら熊野への長い道のりを歩みました。藤白王子はかつて熊野一の鳥居とも称され、熊野への入り口と見なされていました。現在、鳥居自体は失われていますが、隣接する海南市鳥居という地名に名残を残しています。

熊野信仰における重要拠点である藤白神社境内に、近年建立された権現堂があります。そこには平安時代後期に造像された阿弥陀如来坐像(像高87・5センチ)・薬師如来坐像・千手観音坐像からなる熊野三所権現本地仏坐像(和歌山県指定文化財)が安置されています。

本地仏とは、神の本来の姿である仏という意味で、神仏が表裏一体であることを表しています。阿弥陀如来は本宮、薬師如来は新宮、千手観音は那智山のそれぞれの主祭神に相当します。

この3体は、少し変わった台座に座っています。礼盤(らいばん)という台で、如来や菩薩(ぼさつ)が座ることは通常ありませんが、熊野の神々を描いた熊野曼荼羅(まんだら)の中にはこうした台に座っている事例がありますので、まさしく神としての姿を表していることが理解されます。

安置される権現堂は、古くは観音堂と称されており、本来の安置場所ではありませんでした。実はこれらは、元は藤白神社の本殿の中にまつられていたのです。3体の台座と光背も含めた大きさは、それぞれ高さ180センチ、幅120センチほどになりますが、1663(寛文3)年に建立された本殿は、桁行き(建物の長手方向)5㍍を超える大規模な三間社であって、内陣寸法を測ってみると十分に収まります。

『名高浦四囲廻見(なだかうらしいまわりみ)』という江戸時代中期の地誌にも、「今ハ本社の三殿に本地仏在すと云」とあります。また、同記事には、かつて藤白神社内にあった西光寺の安置仏であったという伝承も記され、複雑な歴史をたどったらしいこともうかがえます。もしかすると、平安時代後期、上皇らの度重なる熊野参詣の際に、その熱気ある参詣の様子を見守っていた仏像かもしれません。

(和歌山県立博物館アドバイザー、奈良大学准教授・大河内智之)

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