−第43回−文化財 仏像のよこがお「葛城修験の歴史を伝える仏像」

西念寺地蔵菩薩(八幡神)立像、修理前㊧と修理後㊨

西念寺地蔵菩薩(八幡神)立像、修理前㊧と修理後㊨

友ヶ島から和歌山・大阪・奈良の境にある葛城山系の峰々を、『法華経』の内容になぞらえた28カ所の経塚をたどりながら修行する葛城修験は、2020(令和2)年に日本遺産に登録されました。かつて多数の修験者が全国から訪れ、行場ごとに拠点となる寺や堂舎がありましたが、明治政府の修験道廃止政策により多くが廃絶しました。しかし、そうした信仰の場の痕跡が、場所を変えて今日まで受け継がれた事例も少なくありません。

和歌山市日野の山中に「第二経塚(方便品)」の石の祠(ほこら)があります。周辺一帯は第2の宿「二ノ宿(にのしゆく)」と呼ばれ、神福寺や光福寺、慈眼寺が立ち並んでいました。中でも、規模が大きく、二ノ宿の中心となったのが神福寺です。境内には観音堂、行者堂、経蔵、深蛇池などがありましたが、明治初年に陸軍の軍用地として接収され廃絶しました。江戸時代後期の地誌『紀伊続風土記』には「本尊十一面観音、脇士八幡大菩薩、大威徳明王なり。三像共に役行者の作」と記され、仏像や石造物は、山を下った同市西庄の集落に建つ西山浄土宗西念寺の境内の観音堂に移されています。

21年12月、寺の協力で、江戸時代の等身大の観音像(秘仏の身代わり仏)や役行者像など、秘仏本尊を除いた仏像調査を行いました。特筆されたのは、本尊厨子(ずし)の両脇にまつられた地蔵菩薩(ぼさつ)立像と大威徳明王坐(ざ)像です。近代以降の修理で厚く、鮮やかな色が塗られていましたが、その造形から、ともに平安時代の作例と見受けられました。

地蔵菩薩立像は、神福寺では八幡神像としてまつられてきたもの。右手で右の袖を握る姿は珍しく、これに似た地蔵菩薩像は高野山の周辺に複数確認できます。本来は地蔵だったものが、後に僧形八幡神と位置づけられたのでしょう。調査後に修理が行われ、このほど造像当初の彫刻面がよみがえりました。行場が廃絶しても、修験者たちを見つめてきた仏像は、葛城修験の歴史をその身から語りかけています。(和歌山県立博物館アドバイザー、奈良大学准教授・大河内智之)

コーナー

関連キーワード

 

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

おすすめ記事

  1. リビング和歌山2025年12月6日号「和歌山市内の5つの社寺を参拝 御朱印にときめく小旅へ」
     和歌山市内の5社寺を訪れて御朱印を集める「紀州神仏霊場巡り」が来年4月末まで行われています。全て…
  2. リビング和歌山2025年11月29日号「新たな視点で魅力を発掘し、情報を発信 岩出市地域おこし協力隊着任」
     JR岩出駅前に観光案内所の整備を進めている岩出市。市が初めて募集した地域おこし協力隊も着任し、“…
  3. リビング和歌山2025年11月22日号「昨年よりさらに進化!冬の街を彩る130万の光 KEYAKI Light Parade」
     今年も、けやき大通りがキラキラとした光と笑顔に包まれる季節がやってきます。今年で3年目となる冬の…
  4. リビング和歌山2025年11月15日号「和歌山県の手仕事を訪ねて丈夫で温かみのある風合い手すき和紙の伝統をつなぐ」
     書や工芸、日用品など、暮らしの中で、広く親しまれてきた「和紙」。植物・コウゾと、その繊維を均一に…
  5. リビング和歌山2025年11月8日号「「もしもノート」を活用して 始めてみよう“人生会議”」
     11月30日は、「人生会議の日」。厚生労働省により定められたものですが、“人生会議”って何? 今…
リビングカルチャー倶楽部
夢いっぱい保育園

お知らせ

  1. 2025/12/4

    2025年12月6日号
  2. 2025/11/27

    2025年11月29日号
  3. 2025/11/20

    2025年11月22日号
  4. 2025/11/13

    2025年11月15日号
  5. 2025/11/6

    2025年11月8日号
一覧

アーカイブ一覧

ページ上部へ戻る