−第54回−文化財 仏像のよこがお「細川八坂神社の翁系四面」

翁(左上)・三番叟(右上)・父尉(左下)・延命冠者(右下)細川八坂神社蔵

翁(左上)・三番叟(右上)・父尉(左下)・延命冠者(右下)細川八坂神社蔵

 高野町細川の集落にある細川八坂神社の傘鉾(ほこ)祭と使用される鬼面について、当コラムの第45話(2023年8月26日号)で紹介しました。山里の神社に伝来し、毎年の祭礼で使用されている鬼面が、実は南北朝~室町時代前期の古い仮面であったというものです。同社には他にも古い仮面が多数伝わっていることが、近年になって判明しました。

2015(平成27)年、私が初めて細川八坂神社を訪れ、鬼面を調査したとき、先代宮司の頃まで伝来していた仮面の行方が分からなくなっていることを知りました。その頃、町や県は、細川地区の文化財について何も把握できていませんでした。何か情報がないか探したところ、唯一確認できたのが奈良で活動した仏師で、仏像・石造物研究家の太田古朴(おおたこぼく)が書いた『美佛参籠』という本でした。

古朴は1975(昭和50)年ごろ、同地区の仏像の修理と調査を行い、その成果を先の本で紹介していました。同書には細川八坂神社に「能面等七面」(八面の誤り)があることが記されていました。寸法や銘記も記録しており、仮面の存在を確かに把握できたのです。その確信をもとにあちらこちらを探し、2022(令和4)年6月、同社の蔵の奥底の箱から発見することができました。

この中に驚くべき仮面が含まれていました。室町時代前期まで制作時期がさかのぼる翁・三番叟(さんばそう)・父尉(ちちのじょう)・延命冠者(えんめいかじゃ)の一具同作の翁系四面です。式三番とも呼ばれる翁芸能において、父尉・延命冠者は室町時代中期ごろには使われなくなりました。残存事例も少なく、特に一具同作の事例としては現存最古級のものとみられます。これは高野山麓で古式の翁舞が行われていたことを具体的に示すものであり、謎の多い翁研究を進展させる上でも重要な情報を示すものです。高野山麓では、驚くような文化財がまだまだ人知れず残されています。

八坂神社の仮面は、7月27日(日)まで、奈良大学博物館(奈良市山陵町)の企画展「太田古朴が見た山里の文化財―高野山麓・細川八坂神社の仮面群―」で初公開しています。
(和歌山県立博物館アドバイザー、奈良大学准教授・大河内智之)

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