−第8回−文化財 仏像のよこがお「度重なる難を乗り越えた仏像」

度重なる難を乗り越えた仏像

円福寺愛染明王立像

紀の川市穴伏の円福寺に、珍しい姿の仏像があります。像高52・9cm、江戸時代に作られた愛染明王(あいぜんみょうおう)という仏で、頭上に獅子の顔を表した冠をかぶり、手が6本表されています。何より珍しいのは“立ち姿”であることです。愛染明王は、ほぼ座った姿で表されますので、そこには何か特別な理由がありそうです。

この仏像は元々、円福寺の近くにある名手八幡神社境内の神宮寺に伝わっていました。明治時代の初め、神道の国教化を目指した政府は、神社から仏教的なものを分離・排除する神仏分離を命じ、地域によっては廃仏毀釈(きしゃく)といって、壊されたり捨てられたりもしました。しかしこの像は、村の人たちが近くの円福寺に避難させ、守られたようです。

この愛染明王立像が、再び大きな災難に見舞われたのは2010(平成22)年10月。この年、連続して仏像窃盗を行っていた泥棒の手にかかったのです。犯人逮捕後も行方不明のままでしたが、13(平成25)年2月、オークションカタログに掲載されているのを偶然見つけ、出品業者の誠実な対応により、奇跡的に取り戻すことができました。

一昨年、コロンビア大学(米国)の仏教史研究者、エリザベス・ティンズリーさんから、「『遍明院大師明神御託宣記(ごたくせんき)』という史料に、ある僧が夢で丹生都比売神社の社殿の中に、立ち姿の愛染明王が現れるのを見たと書かれている」と教えてもらいました。夢の話ですが、神宮寺は高野山と関わりが深く、特殊な信仰がそこに息づいている可能性が浮上してきました。

取り戻せていなければ、そうした歴史のつながりを考えることも不可能となっていました。仏像はその外観のすばらしさとともに、誰が祈りどこで守ってきたのか、その伝来の歴史にこそ、価値があると私は思っています。(和歌山県立博物館主任学芸員・大河内智之)

コーナー

関連キーワード

 

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

おすすめ記事

  1. リビング和歌山2025年10月4日号「伊太祈曽駅から四季の郷公園まで運行中 トゥクトゥクに乗ってお出かけ」
     ようやく暑さも和らぎ、出かけやすい季節になりました。伊太祈曽駅から四季の郷公園の間を“トゥクトゥ…
  2. リビング和歌山2025年9月27日号「“無理をしない”を合言葉に 仕事も家庭も全力投球」
     9月25日は「主婦休みの日」。家事や仕事に頑張る皆さんに“自分をねぎらってほしい”という思いから…
  3. リビング和歌山2025年9月20日号「あなたのアイドルを探せ!! 【推し活】アニマル総選挙!」
     ジャイアントパンダの帰国から3カ月。新たな“推し”を探すべく「アニマル総選挙!」を開催します。ア…
  4. リビング和歌山2025年9月13日号「行ってみたから伝えたい! 大阪関西 万博体験レポート」
     今年4月に開幕した「大阪・関西万博」は10月13日(祝)の閉幕まで残すところ約1カ月。今週は万博…
  5. リビング和歌山2025年9月6日号「和歌山のヒガシから新着情報 これが新しい橋本です」
    橋本市と聞いても、「あまり行ったことないわ~」との印象を持つ読者は多いかもしれませんね。実はそれっ…
リビングカルチャー倶楽部
夢いっぱい保育園

お知らせ

  1. 2025/10/2

    2025年10月4日号
  2. 2025/9/25

    2025年9月27日号
  3. 2025/9/18

    2025年9月20日号
  4. 2025/9/11

    2025年9月13日号
  5. 2025/9/4

    2025年9月6日号
一覧

アーカイブ一覧

ページ上部へ戻る