健康寿命を延ばす筋肉の正しい知識 筋肉博士に聞きました!

 “金(筋)曜日が29(肉)日になる日”は「筋肉を考える日」(日本記念日協会認定)です。ムキムキボディーとユニークな発言で、メディアにひっぱりだこの“筋肉博士”こと近畿大学生物理工学部の谷本道哉准教授にインタビュー。実は“和歌山”で教べんを執っていたってご存じでした? 

谷本准教授の専門は「筋生理学」「トレーニング科学」。何を研究していますか?

A 運動しているときに筋肉の中でどういうことが起きているのか、筋肉の放電や酸素状態がどうなっているのかなど、さまざまな装置を使って調べ、力学的な要素も含めて分析しています。最近は、『みんなで筋肉体操』(NHK)の影響で、自重(じじゅう)トレーニングの効果を上げるための測定、分析が増えています。

テレビ番組によく出演されていますよね。同じような研究をしている人は少ないのですか?

A いいえ、いっぱいいますよ。他に出る人がいないから僕が呼ばれている、というわけではないと思いますけど…(苦笑)。スポーツ科学という研究分野は、昔は今よりも研究者は少なかったのですが、2000年くらいから多くの大学に学部ができ、ここ20年で一気に増えました。この分野の最も大きな学会「日本体力医学会」の発表演題は、毎年1000ほどにもなります。分子生物学を研究している人もいれば、運動力学専門、トレーニング科学専門などいろいろな研究者がいます。

メディアでのユニークな“語録”が話題になっていますが、学生には何を教えていますか?

A  生理学と解剖学、応用系でスポーツ科学とスポーツバイオメカニクス(運動力学)などの講義をしています。もともとは、動物実験が主だったんですが、マウスアレルギーを獲得してしまって。今はヒトを使った研究をしています。

鍛え上げられたムキムキボディーに目が行きます。どんな筋トレをどのくらいのペースでやっていますか?

A 時短で集中してやっています。1回20分と決めて、研究室のマシンやバーベルでトレーニングします。仮に1時間に延ばしても効果はあまり変わらないかな? やり方はいろいろで、その時々で変えますが、今は、全身を2分割して、それぞれの部位を週2回ずつ、計4日という感じでやっています。

筋肉の研究を始めたきっかけは?

A 小さいころから筋肉が好きで(笑)。しかし、僕が高校生のときには、大学で専門に学べる学部があまりなかったので、工学部に進学して、設備設計の会社に就職しました。でも、筋肉関係のことを勉強したいなとは思っていて、そんなときに、ボディービルの雑誌で、東京大学の石井直方教授の記事を見て、ここに行けば学べるんだと、大学院へと進みました。

谷本道哉
近畿大学生物理工学部准教授
プロフィル
1972年生まれ、静岡県出身。大阪大学工学部卒。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。国立健康・栄養研究所特別研究員、東京大学学術研究員、順天堂大学博士研究員などを経て現職

今すぐ始めよう“貯筋運動”“筋活”

若い人は“見栄え”のためでも 高齢になると生活機能に直結

研究室はトレーニングルームでもあり…

数々の著書を出版し、昨年、NHKで放送された『みんなで筋肉体操』の筋トレ指導者として話題を集め、決めぜりふの「筋肉は裏切らない」は、2018年の流行語大賞にノミネート。すっかり有名人の谷本道哉准教授に、真面目に筋肉のことを聞きました。

―昨今、“貯筋運動”“筋活”が提唱され、筋力トレーニングがブーム。改めて筋トレの必要性を教えてください。
谷本 一般の若い人たちは“見栄え”のためにやっている人が多いと思います。でも、それでいいんです。健康維持につながりますから。競技選手は、競技力向上のために必要なこと。シニアは、筋力の維持があと何年元気に生きられるか、生活機能に直結するのですごく大事です。

1面のトレーニングウエアとはうって変わってスーツ姿で

―体幹トレーニングへの関心も高まっています。
谷本 腹圧を高めると体幹が安定するというのは、古くからいわれていて、体幹トレーニングは「腹腔内圧(腹圧)を高める」っていわれますけど、イメージに過ぎません。お尻からセンサーを入れて腹圧を実測すると、体幹トレーニングでは悲しいくらい上がりません。飛んだり跳ねたり、打ったり投げたり、競技動作でかなり高く上がるので、腹圧を上げるためにわざわざ競技以外のことをする必要性は低い。多くの人が独自の“トレーニング理論”を本にされていますが、根拠がないものもあるのでご注意ください。

―健康長寿のためには有酸素運動も重要な要素?
谷本 筋力も大事ですが、持久的体力はより重要です。持久的体力が高い、つまりマラソンを走って早い人の方が長生きしますし、心疾患や脳血管疾患にかかりにくいというデータも。でも、高齢になるにつれて筋力は衰えていきます。筋肉が減るとそもそも持久的な運動もできなくなりますよね。

―筋力衰退を食い止めることはできますか?
谷本 60歳くらいから急激に筋細胞の死滅が始まり、筋肉を支配する運動神経の数から減っていきます。老化現象なのでそう簡単にはあらがえませんがご安心を。70歳でも80歳でもトレーニングをすれば筋肉はつきます。

―でも、高齢の人が筋トレするのは危険では?
谷本 自重トレーニングも良いですが、実は高齢者こそ、ジムでマシンを使った筋トレが良かったりします。高齢の方の場合、いろいろ痛む部位もあると思いますが、マシンだと、痛みなくできる種目が多い。マシンに体を預けることで負担が軽減でき、負荷も調整できるので、無理なく実施しやすいです。

―筋トレはどれくらいすればいいですか? 筋肉痛になるほどやった方がいいのですか?
谷本 張り切りすぎて、翌日、普通に生活できなくなるのは辛いですよね。筋肉痛は不慣れな運動で強く起こります。慣らしていけば起こらなくなるので、最初は無理をしないこと。研究としては、1種目を3セットきっちり追い込むなら、週2回というのが理想。ただし、緩くやるんだったら毎日でも構いません。家でスクワットや腕立て伏せを1セットずつ行うという場合なら、2日に1回で週3回くらいが良いと思います。

―筋力をつけるためにプロテインは必要?
谷本 食事が充実していればプロテインは不要、とは必ずしも言えません。プロテインのたんぱく質と食事のたんぱく質は何ら変わりはありませんが、プロテインだと運動直後、筋肉の合成反応が起きているときに、血中のアミノ酸濃度を一気に上げることができます。また皆さん、朝食時のたんぱく質摂取量が不足気味。パン&コーヒー、ごはん&みそ汁に、タマゴ、水切りヨーグルト(ギリシャヨーグルト)などをプラスして、1食で20g以上の摂取を目標に!

書籍情報

筋トレ初心者向けから、アスリート向けまで谷本准教授の著書を紹介します。ぜひとも参考にして、健康寿命を延ばしましょ!

みんなで筋肉体操語録
~あと5秒しかできません!~

「あと5秒しかできません」「筋肉は裏切らない!」「やり切る、出し切る、全部出す」など、深い言葉に、日本中の筋肉が反応。NHK『みんなで筋肉体操』から生まれた、心と筋肉を動かす名言の数々が一冊に。


日経BP(2019年9月発行)、谷本道哉著、四六判189ページ、1540円
みんなで筋肉体操
2020年正月、いよいよシーズン4が放送されるNHK『みんなで筋肉体操』。シーズン1と2の16種目すべてを収録した初のDVD付きブック。筋力に自信のない人でも取り組めるレベルダウンメニューも掲載。


ポプラ社(2019年9月発行)、谷本道哉・NHK「みんなで筋肉体操」制作班著、A5判143ページ、1870円
使える筋肉・使えない筋肉
アスリートのための筋力トレーニングバイブル

流行に流されない「トレーニングの王道」がこの一冊で。効率的に筋力をつけるためのメソッドを、論理的に解説。実績を挙げたトレーナーたちが現場でのトレーニング例を紹介。


ナツメ社 (2018年11月発行)、谷本道哉・荒川祐志編著、石井直方監修、A5判256ページ、1760円
スポーツ科学の教科書
強くなる・うまくなる近道

ストレッチをすると体の何が変わるの? 筋トレでつけた筋肉は使えないって言われるのはなぜ? など、運動能力向上や健康増進に欠かせないスポーツ科学の基礎知識を一問一答式でわかりやすく解説。


岩波ジュニア新書(2011年12月発行)、谷本道哉編著、石井直方監修、新書判240ページ、924円

 

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