−第36回−文化財 仏像のよこがお「廣八幡宮とともにあった仏像 」

十一面観音立像 明王院蔵

十一面観音立像 明王院蔵

 先日、和歌山県立博物館で開催された特別展「濱口梧陵と廣八幡宮」では、同館の調査により把握された広川町内の寺社に伝わる文化財が多数展示公開され、見応えのあるものでした。
展示の核となったのは廣八幡宮伝来資料です。かつて広荘(ひろのしょう)の総鎮守であった同社は、今も地域住民の大きな信仰を集め、秋の例祭では社頭の舞殿で古式ゆかしい田楽(国指定無形民俗文化財)が奉納されるなど、中世世界の息吹を今に伝えています。

境内には室町時代に建立された流麗な社殿や拝殿、楼門(全て重要文化財=重文)が建ち並んでいます。かつては観音堂や多宝塔、鐘楼などの仏教建築がありましたが、明治時代初頭、政府の神仏分離政策により撤去されています。このうち鐘楼は近隣の法蔵寺に移築されて現存し(重文)、多宝塔は広島市の三瀧寺に移築されています(広島県指定文化財)。

それらの堂塔に安置されていた仏像はどうなったのでしょうか。

江戸時代末、廣八幡宮には別当(神社を管理する寺院)として明王院と薬師院がありました。しかし、神仏分離の際に薬師院は廃絶し、仏像は明王院に集められた後、多くが寺を離れました。

展示では、大阪市・四天王寺に引き継がれた仏像のうち、大日如来坐(ざ)像が多宝塔本尊、阿弥陀如来坐像(重文)が本地堂本尊、薬師如来坐像(重文)が薬師院本尊であったことが、同社所蔵の「南紀在田郡広庄八幡宮記録」などで示されていました。それぞれの伝来が現地の史料上で確認されたのは大きな発見です。今、現地に唯一残される明王院の十一面観音立像は像高159・0センチの等身像で、像内に納めた法華経の奥書きに1329(元徳元)年と記された、貴重な鎌倉時代末期の基準作例です。この像についても、もとは観音堂本尊であったことが突き止められました。 これら仏像の展示に尽力した島田和学芸員の調査研究で、他の行方不明仏像も追跡されつつあります。廣八幡宮のかつての神仏習合の光景が、今まで以上にその輪郭をはっきりと見せ始めています。
(和歌山県立博物館アドバイザー、奈良大学准教授・大河内智之)

コーナー

関連キーワード

 

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

交通安全キャンペーン2024 贈呈式

おすすめ記事

  1. リビング和歌山2025年12月20日号「寒い日のお楽しみ せいろ蒸し日和」
     寒い季節にぴったりのせいろ蒸し料理。ベジフル料理研究家・井上宣子さんによる考案、和歌山の食材を取…
  2. リビング和歌山2025年12月13日号「進化した往年の玩具、コレクションの極み 大人が夢中!「キダルトトイ」の世界」
     ちまたのおもちゃ屋さんはクリスマス商戦でかき入れ時。しかし実は今、“玩具市場”をけん引しているの…
  3. リビング和歌山2025年12月6日号「和歌山市内の5つの社寺を参拝 御朱印にときめく小旅へ」
     和歌山市内の5社寺を訪れて御朱印を集める「紀州神仏霊場巡り」が来年4月末まで行われています。全て…
  4. リビング和歌山2025年11月29日号「新たな視点で魅力を発掘し、情報を発信 岩出市地域おこし協力隊着任」
     JR岩出駅前に観光案内所の整備を進めている岩出市。市が初めて募集した地域おこし協力隊も着任し、“…
  5. リビング和歌山2025年11月22日号「昨年よりさらに進化!冬の街を彩る130万の光 KEYAKI Light Parade」
     今年も、けやき大通りがキラキラとした光と笑顔に包まれる季節がやってきます。今年で3年目となる冬の…
リビングカルチャー倶楽部
夢いっぱい保育園

お知らせ

  1. 2025/12/18

    2025年12月20日号
  2. 2025/12/11

    2025年12月13日号
  3. 2025/12/4

    2025年12月6日号
  4. 2025/11/27

    2025年11月29日号
  5. 2025/11/20

    2025年11月22日号
一覧

アーカイブ一覧

ページ上部へ戻る