−第12回−文化財 仏像のよこがお「粉河観音の鞘付き帯と紅袴」

粉河観音の鞘付き帯と紅袴

粉河寺の千手観音は、童子に姿を変えて現れ、願いをかなえる「生身(しょうじん)」の観音として信仰されました。その霊験あらたかな観音の由緒を記した『粉河寺縁起』に、粉河観音独特のある特徴的な姿が語られています。

 河内国の左大夫(さだゆう)の子が重い病気にかかり、童行者(わらわぎょうじゃ)が千手陀羅尼(だらに)を唱えるとたちまち平癒。お礼の品を断り、鞘(さや)を付けた帯だけを取り、粉河に去ります。左大夫が尋ねて行くと、庵(いおり)の中にまつられた千手観音像の施無畏手(せむいしゅ=右側一番下の手)にあの鞘付きの帯を持っていました、というもの。

①国宝粉河寺縁起の粉河観音(粉河寺蔵)

 粉河寺の縁起は、鎌倉時代になって増補され、33話からなる『粉河寺観音霊験記』が編さんされました。その中にも粉河観音の姿に関わる物語があります。平安時代の初め、在原業平が天皇へのささげ物を用意できずに困っていると、粉河寺の童がこの世の物とは思えない妙味な菓子を持参し、助けられました。妻の北の方がお礼に紅の袴(はかま)を渡しましたが受け取らないので、肩に掛けました。後に夫婦で粉河寺に行き、千手観音像を見たところ、肩に紅袴が掛かっていました、と記されています。

②千手観音二十八部衆像の粉河観音(粉河寺蔵)

この鞘付き帯と紅袴を持った観音の図像が二つあります。一つは国宝の粉河寺縁起(写真①)、もう一つは粉河寺に伝わる千手観音二十八部衆像(写真②)。しかし、その図像は大きく異なります。施無畏手に鞘付き帯、肩に紅袴という粉河寺の縁起内容に正確なのは後者の方です。縁起は信仰の核となる大切なもの。国宝の絵巻の制作には、寺の人は関与していないと見られます。粉河寺縁起研究の新たな着眼点は、観音の姿そのものにあったのです。11月23日(祝)まで、県立博物館の特別展で公開(下記参照)。
(県立博物館主任学芸員・大河内智之)

創建1250年記念特別展
国宝粉河寺縁起と粉河寺の歴史

縁起絵巻、縁起絵をはじめ、仏像、仏画、古文書など150点が展示されます
国宝粉河寺縁起展示部分
【前期】11月1日(日)まで
「猟師による粉河寺創建譚(たん)」
【後期】11月3日(祝)~23日(祝)
「長者娘の病を治す霊験譚」
【問い合わせ】
073(436)8670県立博物館
午前9時半~午後5時(入館は4時半)、月曜休館(11月23日は開館)、入館料一般830円・大学生520円※高校生以下・65歳以上・障害者手帳の交付を受けている人などは無料、11月1日(日)・14日(土)・15日(日)・22日(日)は無料

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