−第66回−文化財 仏像のよこがお「那智山青岸渡寺の阿弥陀如来坐像」

阿弥陀如来坐像(那智山青岸渡寺蔵)

前回(4月26日号)、熊野那智大社に伝わる桃山時代造像の熊野十二所権現像を紹介しました。豊臣秀長によって始められた那智山復興造営の最終段階で、秀長が1591(天正19)年の正月に死去した後、子秀保を支えた家臣団が南都・下御門仏師に発注し、造像されたと考えられる社殿安置の15体です。宗貞と弟の宗印、良紹ら下御門仏師一門総出による造像であったことが、各像に記された銘文から分かります。

これら神像の銘文には制作時期が記されていませんが、一連の造像と考えられる重要な仏像が、熊野那智大社と隣接する那智山青岸渡寺に伝わります。現在、滝宝殿(宝物館)に収蔵されている阿弥陀如来坐像は、像高34・8センチの小像で、後世の修理による厚い彩色に覆われていますが、目尻をややつり上げた明快な表情や、引き締まった体部の表現など、鎌倉時代の仏像に学んだ端正な作風がうかがえます。元は素地像であったと報告され(山本勉「宗貞と宗印」『MUSEUM(ミュージアム)』№408、1985年)、これも先の神像と共通します。

像内背面に1592(天正20)年2月の年紀が記されるとともに、頭内に「なら/大仏師/宗貞法印作/貞怡法橋/妙怡禅尼為□法界」と宗貞の名が記されます。貞怡(じょうい)法橋と妙怡(みょうい)禅尼の名は、熊野那智大社神像群のうち、面足尊(おもだるのみこと)坐像の銘文にも見えます。願主や施主と無関係に、仏師の関係者の名を記して結縁するのは、下御門仏師の前身である宿院仏師の作例にも多くみられるものです。

本像はどのような目的で造像されたのでしょうか。社殿安置の熊野十二所権現像と同時に発注、造像された仏像であり、個人的な信仰ではなく、一山全体に関わるものであったでしょう。おそらく熊野三山の本地仏として造像されたのではないかと考えています。本地仏とは神の本来の姿である仏という意味で、熊野三山では本宮が阿弥陀如来、新宮が薬師如来、那智山は千手観音です。那智山では明治時代の神仏分離により、多数の仏教関係資料が山外に避難しています。他の本地仏もどこかに伝えられ、残されていないか、調査を続けたいと思います。
(奈良大学教授・大河内智之)

阿弥陀如来坐像後頭部内面墨書

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