−第79回−文化財 仏像のよこがお「高野山麓で継承された翁系4面」

翁(左上)・黒色尉(右上)・父尉(左下)・延命冠者(右下)

高野山麓で継承された翁系4面

 九度山町の勝利寺に伝来し、慈尊院で保管されている翁と延命冠者(えんめいかじゃ)という2つの仮面があります。『紀伊続風土記』慈尊院村勝利寺の項目に「仮面二 豊太閤野山散楽の時用ひし面といふ。甚古色あり」と記されるもので、豊臣秀吉が高野参詣をした際に用いたものと伝えています。

秀吉は、高野参詣に際して自らが主人公である能『高野参詣』のシテ(主役)を務めて舞っています。また、歌舞音曲が禁じられた高野山で能を行ったため、弘法大師の怒りを買って激しい雷雨となり、秀吉は山を逃げ下りたという話も後に作られています。
翁は冠をつけ、全体に皺(しわ)を表し、通例とは異なる顎(あご)を切り離さない特殊な形状です。広葉樹を用いて肉厚は厚く、顎には植毛痕が残ります。表現に萎縮したところがなく、秀吉の時代よりも古い、室町時代前期ごろの制作とみられます。

延命冠者は太い眉を描き、目はへの字に笑みをたたえ、お歯黒を施しています。表現や材質など翁と共通します。延命冠者は現在の「翁」では用いられませんが、室町時代の早いころには、翁とともに、父尉(ちちのじょう)、延命冠者、そして黒色尉(三番叟=さんばそう=とも)の4面が使われており、古い延命冠者の面はたいへん珍しいものです。

勝利寺の2面を把握した際、すぐに残りの2面の存在に思い至りました。かつらぎ町花園中南の上花園神社に所蔵される父尉と黒色尉です。

父尉は冠をかぶり、顔全体に皺を表して目をつり上げ、顎を切り離しています。黒色尉も冠をつけ、顔全体に皺を表して顎を切り離し、目には笑みを浮かべ、顔全体に若干ゆがみを持たせて墨塗りとします。勝利寺の2面とは、彫り癖も含めた作風や材質などが共通し、彩色も蛍光Ⅹ線分析で同じ組成であることが確認できました。これら4面は本来一具であったのです。

離ればなれになりながらも今日に伝わった勝利寺と上花園神社の翁系面は、謎の多い翁という芸能の歴史をひも解くための新たな手がかりとなるものです。さらなる研究を進めたいと思います。
(奈良大学教授・大河内智之)

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