−第73回−文化財 仏像のよこがお「盗まれた仏像のゆくえ②」

千光寺千手観音立像

千光寺千手観音立像

 前回(本紙11月29日号)、全国で換金目的の仏像盗難被害が発生していること、その背景にインターネット上のオークションサイトの隆盛による古美術品の需要増加と、集落の人口減少や高齢化による犯罪の抑止力の低下があることを伝えました。今回も、盗難被害仏像の行方を追ってみます。

2010年の春ごろから和歌山県内で発生した大規模な仏像盗難被害は、1年間に60カ所で被害届けが出されるという空前の規模となりました。この年の9月9日、橋本市高野口町上中の住民によって管理される千光寺で、本尊千手観音立像の盗難被害が判明しました。

盗難被害時に壊れた部品

当時、橋本市が進めていた市史編さんの調査のため、市職員が訪れた際、普段閉めているはずの扉が開けっぱなしになっており、慌てて確認したところ本尊像が失われていたのです。堂内には、仏像を盗み出す際に破損して外れた部品が散らばっており、さんたんたる様子でした。

像高104・5㌢の一木造りの作例で、穏やかな風貌や緊張を解いた立ち姿など、平安時代後期、12世紀ごろの造像とみられます。多数の脇手は江戸時代に補われたもので、折々に修理の手を加えながら、集落の人々とともにこの地に立ち続けてきた仏像でした。そんな大切な仏像を、窃盗犯は壊しながら、あるべき場所からはぎ取るように奪っていくのです。

仏像盗難の嵐が収まらない中、この壊れて堂内に取り残された部品は、被害の実態を示すため和歌山県立博物館の企画展「緊急アピール・文化財の盗難多発中!」(2010年11月13日~2011年1月10日)でも展示公開しました。

翌年春の犯人逮捕後、仏像は売り払い先の古美術商から幸いにも取り戻されました。壊れた部品も修理で取り付けられ、元の姿を取り戻しました。現在は県立博物館に預けられています。

仏像盗難は人々の信仰の尊厳と地域の歴史を毀損(きそん)します。被害者を出させない不断の対策を所蔵者、行政、そしてみんなで考えていかねばなりません。
(奈良大学教授・大河内智之)

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