私は息子たちが小学生のころ、秋になると山へ連れて行きました。持っていくのは、シカの声をまねるための小さな笛。「これでシカと話してみよう!」と言って、子どもたちに笛を吹かせていました。鳴き声をまねるのです。
秋の繁殖期を迎えた雄ジカは、ほかのオスに自分の存在や縄張りを知らせたりするため、「ピヒャーッ」という悲鳴のような独特の高い声を出します。この声をまねてシカを呼ぶ方法は、特に北米では盛んに狩猟に応用されていて「コール猟」と呼ばれています。
山の中で雄ジカの声をまねすると、付近にいる雄ジカが縄張りを守ろうと姿を現すことがあります。その際、ただ鳴きまねをすればよいというわけではなく、時間帯や場所に工夫を凝らさなければいけません。
息子たちは家で鳴きまねを練習して山で何度もチャレンジしました。するとある日、遠くから本当に「ピヒャーッ!」と返事が返ってきました。「あっ、ほんまに返事した!」
息をひそめて目を見開き、声のする方向を見ると、木々の間から縄張りを守りにきた雄ジカが姿を現しました。
まるで魔法のような出来事ですが魔法ではありません。シカにとって今はどんな季節なのか。この季節だけの独特の鳴き声は何のための鳴き声なのか。シカの生態を知り、知恵を絞り工夫を凝らして シカと話す。私と息子、そして雄ジカの三者が重なった貴重な時間は、私と息子の大切な思い出になっています。
机の上やタブレットで得た知識は、秋の空気の中で忘れられない経験となり、そしてその経験は今後の生活での知恵に結び付くと思います。
秋の山は、シカたちの声が聞こえる季節。耳を澄ませてみてください。
もしかすると、今まで聞こえなかった「生き物の言葉」が聞こえてくるかもしれません。生態を知るって面白い。そして、実際に体験することで自然はもっともっと面白くなるのです。
(里山アップサイクル代表・溝部名緒子)

キジ笛、雌ジカの鳴き声がする笛、シカ笛(手前から時計回り)
| 著者 | 女性狩猟会・里山アップサイクル代表溝部 名緒子さん |
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| プロフィール | 全狩猟免許を取得。サバイバル体験施設「ハンターズイン」のガイドを務める他、さまざまな体験活動を展開中 |
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