−第18回−文化財 仏像のよこがお「浄教寺大日如来坐像と明恵上人」

京都・栂尾の高山寺は、和歌山を代表する高僧・明恵(1173~1232)によって開かれた寺院です。現在、東京国立博物館では、高山寺に伝わる至宝・鳥獣戯画4巻の全貌を公開する特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」が開かれていますが、その中に一体だけ仏像が展示されています。有田川町・浄教寺の大日如来坐像です。

像高87cm、頭上の高く太い髻(もとどり)の形や、まなじりが切れ上がったはつらつとした表情、引き締まった肉身など、鎌倉時代初期、運慶、快慶、湛(たん)慶ら慶派仏師の作風を示しています。浄教寺の近隣にあった最勝寺(廃絶)から戦国時代末期に移され、継承されてきた仏像です。

有田川流域に勢力を有した湯浅氏の一族に生まれながらも、幼くして父母を失った明恵は、京都・高雄の神護寺にいた叔父の上覚のもと、仏門に入り、その後、高山寺を開きました。日々の夢を詳細に記した『夢記』で知られ、生涯戒律を守った真摯(しんし)で清廉な生き方に多くの人が憧れを抱いてきました。高山寺では、慶派仏師が盛んに造像を行っており、明恵との間には深いつながりがありました。

明恵は生前、度々故郷に戻り、山中で修行をしています。1204(元久元)年、湯浅一族の有田郡一帯の地頭職が失われる事態となった際には、その解決を図るため、最勝寺裏山に庵(いおり)を建て、息災のための祈祷(きとう)・大仏頂法を行っています。

同じ年、最勝寺の近隣、田殿荘内崎山(現・崎山遺跡)に暮らす養父の崎山良貞が亡くなり、尼となった妻(明恵実母の姉)が夫の菩提(ぼだい)を弔うため、屋敷に仏像や経典を安置して寺とし、1208(承元2)年までに明恵に寄進しています。屋敷は明恵にとっても縁の深い場所であり、私はここに大日如来坐像が安置されていたのではと想像していますが、どちらにせよ明恵と故郷との濃密な関わりの中、上人を慕う慶派仏師を用いて造られたのです。

釈迦(しゃか)を父、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)を母と慕った明恵。養父母との思い出に満ちたこの地に伝わる仏像と向き合うと、いつも故郷での明恵の面影が浮かんでくるのです。
(和歌山県立博物館主任学芸員・大河内智之)

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