−第39回−文化財 仏像のよこがお「丹生都比売神社第四殿の神は誰か 」

第四殿の女神坐像(左・木型、右・鋳造像)

第四殿の女神坐像(左・木型、右・鋳造像)

 前回(1月28日号)、丹生都比売神社(かつらぎ町上天野)の第三殿を気比明神とする祭祀(さいし)のあり方が実は古いものではなく、元は三大明神(三大神宮)と呼ばれ、高野山麓で信仰される在地神のうちの蟻通(ありどおし)神を同一とする史料があることを紹介しました。では、現在厳島明神とされる第四殿の神はどうでしょうか。

平家物語巻三「大塔建立」に次の物語があります。平清盛が安芸国の収入で高野山大塔を修理した際、奥之院で老僧に出会い「安芸の厳島、越前の気比宮は大日如来の聖地だが、気比宮に対して厳島は荒れている。次は厳島を修理されたい」と促され、厳島社も修造。その後、清盛の夢に厳島明神が出現。銀蛭巻(ひるまき)小長刀をもらい、天下を鎮めて朝廷を護持せよとのお告げを受け、目覚めると本当に枕元に剣が立て掛けてあった、と語られています。

清盛の厳島信仰の来歴を示す挿話で、特に気比・厳島神が高野山で祭祀される内容ではありません。後にこれを流用して第三殿・第四殿を気比・厳島とする信仰が生まれたとみられます。

第四殿の神は、丹生高野四社明神をたたえる資料「山王講式」では四宮権現と呼ばれ、丹生明神の娘で弁才天を本地仏(神の本来の姿)とするとしています。近年、現存最古の丹生高野四社明神像の銅像(個人蔵)とその木型(三谷薬師堂)が発見されました。銅像は、頭にまげを二つ結ったかわいらしい風貌で、両方とも体に唐服をまとい、左手には棒状のものを持ち、右手にも何かを載せていたようです。剣と宝珠を持つ弁才天の図像は一般的なものです(ただし左右が逆)。

高野山では弁才天信仰が盛んですが、山麓でも古沢郷の古沢厳島神社(九度山町上古沢)は、近世まで「弁才天社」と呼ばれました。他にも、槙尾山明神社(九度山町九度山)も弁才天信仰の地です。鎌倉時代初期の丹生都比売神社では、高野山麓の弁才天信仰が第四殿として取り込まれ、地域神の結合体としての四社明神が成立したとみられます。

しかし、こうした四神の信仰は高野山上で全面的に受け入れられたわけではなかったようです。壇上伽藍(だんじょうがらん)の御社(みやしろ)では、第一殿の丹生明神と第二殿の高野明神の二神と総社の三社、奥之院御廟(ごびょう)では二神だけの祭祀です。社殿も二棟です。

神々の祭祀のあり方を分析していくことは、地域がたどった歴史を解き明かしていく作業でもあるのです。

(和歌山県立博物館アドバイザー、奈良大学准教授・大河内智之)

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