−第55回−文化財 仏像のよこがお「細川阿弥陀堂の阿弥陀如来坐像」

阿弥陀如来坐像 細川阿弥陀堂蔵

阿弥陀如来坐像 細川阿弥陀堂蔵

高野町細川の八坂神社は、社前を流れる不動谷川の清流に沿って境内が広がり、社殿とともに阿弥陀堂が建ち並んだ神仏習合の景観を残しています。同社の祭神は、現在は素戔鳴命(すさのおのみこと)ですが、江戸時代までは牛頭天王をまつっていました。牛頭天王の本地仏(ほんじぶつ)は薬師如来で、かつては境内に天王山薬師寺があって、住職は社僧として神社の祭事に関わっていました。それでは阿弥陀堂はどのような信仰の場だったのでしょうか。

阿弥陀堂本尊の阿弥陀如来坐像は、像高86・7センチ、来迎印(らいごういん・手の親指と人差し指でつくる輪)を結んだ等身大の像です。頭体の根幹部分はヒノキの一木で、前後に二つに割り、内側をくり抜いて、頭部も首の下で割り放した一木割矧造(いちぼくわりはぎづくり)という技法を用いています。

小粒の螺髪(らほつ)は整然と並び、伏し目がちで頬の丸く穏やかな面相や、円満な体型、緊張を解いた座り姿、浅く流麗な衣紋線など、平安時代後期、12世紀後半ごろの特徴を示しています。高野山上に伝来する同時期の如来坐像と傾向を同じくする堅実な出来映えの作例で、造像に際しては高野山僧の関与があったものとみられます。

台座の部材に江戸時代の銘文があります。そこには「阿弥出作時代不知/紀州伊都郡東細川中村阿弥陀/座後光再興者/正徳元辛卯年/六月吉日/天王山薬師寺/阿闍梨/応雅代」とあって、1711(正徳元)年に台座と光背を新たに作ったことが記されています。

修理の願主は天王山薬師寺の応雅ですが、仏像自体は「東細川中村阿弥陀」と記すように薬師寺に付属するものではなく、村に帰属することが伺えます。

つまり、阿弥陀堂は、高野山との関わりの深い薬師寺からは独立した住民結束の場として細川村の人々が管理する村堂だったのです。現在もそのあり方は受け継がれ、日常の管理は住民によって行われています。平安時代の古仏が今日まで継承されてきたのは、まさしくそれが住民自治を象徴的に示す存在だからだといえるでしょう。
(和歌山県立博物館アドバイザー、奈良大学准教授・大河内智之)

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