−第57回−文化財 仏像のよこがお「よみがえる花園荘龍山寺」

 十一面観音像 地蔵寺蔵

十一面観音像 地蔵寺蔵

 高野山の寺領荘園の中で、最初期に設定されたのが花園荘です。高野山南方、奥之院から流れる御殿川(おどがわ)流域周辺の山深い土地ですが、山上仏事で用いる花や樒(しきみ)を供給したことから、その華やかな名前が付けられました。
その花園荘の故地、かつらぎ町花園久木の集落では、1333(元弘3)年に久木夏衆(げしゅう)の存在が確かめられます(中南区有文書)。夏衆とは、本来は夏安居(雨期の修行)に参加する僧のことですが、後に供花・仏供を調達する下級僧(堂衆)の意味を持つようになります。現在も久木集落の産業は高野槙(コウヤマキ)の栽培・採集・販売で、その歴史は連綿と引き継がれています。
久木集落の中心に久木丹生神社と地蔵寺があり、近年の調査で集落の古い歴史を今に伝える文化財が多数引き継がれていることが分かってきました。中でも注目されるのが、縦147㌢、横75㌢のヒノキの板に描いた十一面観音像です。彩色の剥落が進み、また補彩や補筆もされていて、画面は明瞭ではありません。しかし、その姿は曼荼羅(まんだら)から抜き出したような正統的な図様で、等身大の大きさも相まって迫力があります。
裏面に記された墨書には、1276(健治2)年に坂上貞房を施主として作られたこと、そして、1390(明徳元)年に一山(高野山か)の勧進が行われたことが記され、このときに修理が行われたようです。高野山周辺に勢力を有した坂上氏は、南北朝時代の花薗荘の荘官にもその名が見え(「正平十年坂上兼澄言上状案」)、本像が当地の有力者により制作されたものと判断されます。
明徳元年の銘記冒頭に「龍山恭御本僧四天一度忍」とあります。この「龍山」とは何を指すのでしょうか。調査では、地蔵寺に伝来する資料の中に、1351(正平6)年の年紀と、「龍山寺御正躰/金剛峯寺御領花薗庄」と記した板絵の十一面観音像や「龍仙寺」と刻まれた護符の牛玉(ごおう)宝印板木も確認しました。かつて花園荘内にあった龍山寺(りゅうせんじ)の存在が、今、よみがえったのです。高野山の歴史にまた新たな1ページが加わりました。
和歌山県立博物館で開催中の特別展「聖地巡礼―熊野と高野―第Ⅱ期 神仏・祖師の住まう山」の後期展示で公開。9月29日(日)まで。(県立博物館アドバイザー、奈良大学准教授・大河内智之)
※関連記事は本誌(9/7号)7面に掲載

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